研究課題/領域番号 |
17K04708
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
早田 幸政 中央大学, 理工学部, 教授 (30360738)
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研究分担者 |
林 透 山口大学, 大学教育機構, 准教授 (20582951)
堀井 祐介 金沢大学, 高等教育開発・支援系, 教授 (30304041)
前田 早苗 千葉大学, 国際教養学部, 教授 (40360739)
望月 太郎 大阪大学, 文学研究科, 教授 (50239571)
島本 英樹 大阪大学, 全学教育推進機構, 准教授 (50299575)
工藤 潤 公益財団法人大学基準協会(大学評価研究所、高等教育のあり方研究会及び評価研究部), 大学評価研究所, 特任研究員 (70360740)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ASEAN / 高等教育質保証 / 国境を越えた学生移動 / 学習成果 / アウトカム評価 |
研究実績の概要 |
ASEANでは、同地域内での学生移動促進のため学位の共通的な資格枠組を設定し地域横断的な高等教育質保証のためのシステム作りが形成されている。北東アジアでも、日・中・韓の間の学生移動は活発化しており、ASEAN型「学習成果」を軸とするアウトカム評価を基礎とする高等教育質保証のシステム化が「ASEAN+3」の枠組みの中で模索されている。 そこで当年度は、中国、韓国の高等教育質保証システムの検討に注力した。 このうち、中国に関しては、高等教育における都市部・農村部の進学格差に伴う入学者の資質・能力にバラツキがあることの他、私立(民弁)大学の教育が学位授与のレベルに至っていないことなどを背景に、教育重視の側面から大学質保証システムが系統的かつ急速に整備されている現状とその意義について検討を行った。とりわけ、「教育部高等教育教学評価センター」の実施する「合格評価」と「審核評価」の検討に意を払った。韓国に関しては、少子化の影響下にある高等教育機関の量的整備の在り方や大卒者の就職難の解消が急務の課題となっている中、大学教育の質保証の現状を把握しその内容・意義の考察を行った。そこで中心的に取り上げたのが、「大学教育協議会・大学評価院(KCUE-KUAI)」の担う「大学機関アクレディテーション」と政府・教育部が直接主導する「大学基本能力診断評価」であった。 さらに、北東アジア地域の高等教育質保証連携の方向性を占うものとして、2018年発効の「高等教育の資格の承認に関するアジア太平洋規約」を契機に、ASEAN型の髙等教育質保証の仕組みが我が国においてどう具現化していくかの問題提起を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当年度の当初計画は、主として中国、韓国の質保証の現状把握を行うことを主たる目標としていた。そしてASEAN地域で先行的に形成されつつある高等教育質保証連携と関連づけつつ、当初計画通りに、両国の高等教育質保証システムの十全な検討を行った。そこでは、両国の高等教育質保証のシステム化とその十全な運用を必要とする理由・背景の綿密な把握を試みるとともに、国別の高等教育質保証システムの内容の詳細な検討を行った。 これを具体的に見ると、中国については、「教育部高等教育教学評価センター」の行う「合格評価」と「審核評価」の意義・内容と両評価間の関係性について踏み込んだ検討を行った。韓国については、KCUE-KUAIの現行の質保証システムの整備に至る経緯とともに、そこで適用されるアクレディテーション基準の規範構造やアクレディテーション・プロセスを明らかにした。加えて、現下の同国の高等教育を取り巻く社会問題と関連づけて「大学基本能力診断評価」が企図する質保証の仕組みの意義について検証を行った。 そして何よりも、2020年度の当初計画では必ずしもその実現のめどが立っていたとは言えなかった本科研費研究に係るこれまでの研究活動・研究実績を踏まえた研究成果を、『平成30年度~令和元年度 科学研究費補助金基盤研究(C)研究成果報告書』としてとりまとめるに至った。このことが当年度における本調査研究の特筆すべき事項である。本報告書は、全体で272頁にも及ぶ膨大なものとなった。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに、ASEAN諸国において高等教育の「学習成果」の達成度評価を基本とする国別の第三者評価が形成される中で、学生移動に伴う学位・単位の国境を越えた互換性確保を目的とした各国の高等教育質保証の効果を共有し合う仕組みに係る調査研究を行ってきた。そして、「ASEAN+3」の枠組の中で、日・中・韓の3カ国の高等教育質保証の在り方に如何なる影響をもたらすかを究明すべく、当年度は、中国、韓国の高等教育質保証システムの調査研究を書面調査を通じて行った。 さて、我が国が2018年発効の「高等教育の資格の承認に関するアジア太平洋規約」の主要批准国であることに伴い、「学習成果」の達成度評価を主軸とした新たな「認証評価」の体制を構築・運用していくことが求められるようになった。 そこで、2021年度は、我が国高等教育を取り巻くこうした内外の状況を見定め、各大学・学部等の学位授与方針が明示する「学習成果」のアウトカム評価を考察を中心に据え、高等教育質保証の効果を各国間で共有し合う枠組の在り方についての認識を深めていく。具体的には、各大学の「内部質保証」の中で「学習成果の可視化」の営みがどう効果的に行われ、学生の「学び」の成就と併せ授与する「学位」そのものの質保証が如何にして図られているか、その結果を教育の改善・向上にどうリンクさせているのかを中心とした調査研究に取組んでいく。さらに、コロナ禍による海外渡航制限が解除された暁には、懸案であったカンボジア調査の敢行も視野に入れたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本調査研究では、「学習成果」を軸とした達成度評価を通じて高等教育の質保証を図るとともに、アクレディテーション等の外部評価システムを媒介にその効果の国際的通用性を確保するための枠組の考察を進めてきた。本調査研究計画の前半・中盤は、ASEANの地域横断的な高等教育質保証枠組の調査研究を集中的に行った。そして当年度は、そうしたASEANの試みが北東アジアに及ぼす影響を探求する手掛かりとして、中・韓の高等教育質保証システムの考察を行った。 しかしながら、日本については、現在、「学習成果」の達成度評価の不可欠の要素である「学習成果の可視化」の調査プロジェクトが、我が国を代表する認証評価機関である大学基準協会で進行途上にあり、我が国高等教育質保証システムを素材に上記課題の探求を進めていく上で、大学基準協会の同プロジェクトの成果を見極めることが不可欠であった。本調査研究の最終成果を次年度に回すとともに、次年度使用額が生じた大きな理由はこの点にあった。また、コロナ禍で計画していたカンボジア等への海外調査が延期になったことも、次年度使用額が生じた理由の一つであった。
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