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2021 年度 実施状況報告書

「個性」の成立と言説編成に関する歴史社会学:「個性調査」をめぐるポリティクス

研究課題

研究課題/領域番号 17K04712
研究機関立教大学

研究代表者

有本 真紀  立教大学, 文学部, 教授 (10251597)

研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2023-03-31
キーワード個性 / 個性調査 / 言説編成 / 歴史社会学 / 学校的社会化 / 小学1年生 / 児童 / 教師
研究実績の概要

日本の近代学校において「個性」概念が普及・浸透した過程を捉えるために、2021年度は、特に以下の3点に焦点化して研究を進めた。
①家庭と学校の関係史:1900年代に入り児童の個性調査が普及していく中で、学校は家庭を個性の原因と捉えて家庭調査に力を入れていく。一方、家庭は次第に学校に適合的な子育てを行うようになり、高度成長期の「教育ママ」を経て、育児は学校への予期的社会化の様相を色濃く帯びるようになる。こうした関係史について、前年度までは昭和戦前期以前に焦点化して研究を進めていたが、2021年度は近代学校成立から現代までを射程に入れ、通史的な視点から学校と家庭の関係の変遷を把握することに注力した。この知見は、『早稲田文学』誌上に論考として発表した。
②小学1年生の歴史社会学:はじめて学校生活を経験する小学1年生という存在に注目し、学校において新規参入者がいかに処遇されてきたか、「学校的社会化の歴史」の視点から分析を進めた。制度上小学1年生が出現するのは第二次小学校令期であるが、それ以前の学制期・教育令期はもとより、近世期における教育機関の新規参入者に対する扱いをも比較参照し、現代に至るまでを見通すべく取り組んでいる。本研究では、小学1年生という歴史的存在に着目することで、近代学校がいかにして「子ども」を「児童」にしてきたのかを、教育言説から浮かび上がらせることを目指している。2021年度は、この成果の一端を①の実績に盛り込み、また、一般読者向けの冊子にも公表した。
③「個性調査」に関連する教育事象:児童の個性をめぐる言説への着目だけでなく、「個性調査」に関連する教育事象についても多面的に分析を行った。具体的には、「戦前期の学校儀式唱歌」「学校における罰」などの切り口を通して、「個性」が見出されていく場や機会に関する言説を基に考察し、学会発表、論文として成果を公表した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

2021年度の研究推進方策として、①個性調査を中心とする地方一次史料の収集・分析再開と、教育雑誌の「個性」関連記事、教育書、育児書、学習雑誌等の文献収集実施、②すでに日本各地で収集し、画像データとして蓄積している学校文書の分析、の2点を掲げて進めた。地方での一次史料調査が大きく制約を受ける状況下で、①地方史料としては愛媛県、島根県、北海道の雑誌記事を中心に収集し、教育書、育児書、学習雑誌等の文献収集を充実させた。また、②では、主に青森県、長野県の学校日誌データの整理を行った。
「個性」が教育上の重要課題として浮上する前提として、心理学と教育学ないしは教育実践との結合、家庭と学校との連携あるいは対立といった問題が存在したと考えられる。そこで、2021年度は後者の「家庭と学校」の関係に重点を置いて史料収集と整理、考察を行った。とりわけ、家庭と学校の接点が最も顕在化するのが「小学1年生」であり、入学に至るまでの子育てや準備、入学後の注意は家庭向け育児書や児童雑誌において、入学式の準備から入学後の取扱は教師向けの教育書や教育雑誌において、数多の言説が生み出されてきた。また、家庭と学校の関係については、先行研究の蓄積も厚い。そこで、明治期から高度経済成長期にかけての代表的な教育雑誌、育児雑誌、児童雑誌から関連記事を体系的に収集する作業を継続した。また、先行研究についても、より対象を広げて押さえるように努めた。
この1年間の進展により、研究視点を深化させ、当初の予定より長期に及ぶ対象時期を見据える目途を立てることができた。期間延長が認められたことを受けて、さらなる進展を期すための足掛かりとしたい。

今後の研究の推進方策

期間延長後の最終年次を迎え、研究を総括して知見の整理と成果の発表を行う予定であり、具体的には以下の2点を目標に据えている。
①単著として出版企画が決定している『小学1年生の歴史社会学』(仮)では、書籍や雑誌等により流布した公的な言説と実践の場で記録された一次史料を活用し、小学1年生という存在の歴史的過程をたどる。加えて、現代において「児童になる」ことの意味と「児童にする」実践、およびその実践がもたらす帰結を分析し、子どもたちが経験する「歴史的身体」の不可避性を考察する予定であり、その執筆を完了させたい。
②本研究は「学校的社会化の理論的・経験的研究『児童になる』論理と実践の教育社会学的探究」(基盤研究(B)18H00990代表者:北澤毅)との協力関係をもちつつ進めてきた。最終年次にあたり、両科研合同での研究成果報告書「学校的社会化の歴史と現在」(仮)の作成を目指す。
この目標達成に向けて、小学校での観察調査、小学校教員への聞き取り調査、史資料の収集と分析、文献研究を実施する予定である。それと並行して、これまでに日本各地から収集し、画像データとして蓄積している学校文書をはじめとする各種史資料を参照しつつ、研究成果の公表に結実させたい。

次年度使用額が生じた理由

次年度使用額が生じたのは、2020年度から続くCOVID-19の感染拡大の影響によって、2年近くに亘り史資料収集調査が実施できなかったことが主な要因である。2022年度も一次史料の収集は不透明であるため、それにこだわらず雑誌記事を中心とした資料収集を実施したいと考えている。また、単著執筆を進めるにあたって必要となる、古書を中心とする図書の購入、雑誌記事の整理収集、文献複写などへの使用を計画している。加えて、「今後の研究の推進方策」欄に述べた研究成果報告書「学校的社会化の歴史と現在」(仮)の作成費用に充てる予定である。

  • 研究成果

    (7件)

すべて 2022 2021

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] 家庭と学校の関係小史―「学校的社会化」の視点から2022

    • 著者名/発表者名
      有本真紀
    • 雑誌名

      早稲田文学

      巻: 1037 ページ: 252-264

  • [雑誌論文] 停学と退学の罰からみる日本近代学校秩序の創出と維持―明治期『学校管理法書』に着目して―2021

    • 著者名/発表者名
      水谷智彦
    • 雑誌名

      教育学研究

      巻: 88-2 ページ: 211-222

    • DOI

      10.11555/kyoiku.88.2_211

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 卒業式歌・卒業ソングの同時代史2021

    • 著者名/発表者名
      有本真紀
    • 雑誌名

      地理歴史教育

      巻: 927 ページ: 120-125

  • [雑誌論文] 《勅語奉答》と唱歌教育―雑誌記事を中心に―2021

    • 著者名/発表者名
      権藤敦子・嶋田由美・有本真紀
    • 雑誌名

      広島大学大学院人間社会科学研究科紀要『教育学研究』

      巻: 2 ページ: 19-28

    • DOI

      10.15027/51600

    • オープンアクセス
  • [学会発表] 日本近代における生徒の懲戒方法論の形成過程―明治期の米国学校管理論の受容に焦点化して2021

    • 著者名/発表者名
      水谷智彦
    • 学会等名
      日本教育社会学会第73回大会
  • [学会発表] 日本近代の教育と罰をめぐる歴史社会学研究の目的と意義2021

    • 著者名/発表者名
      水谷智彦
    • 学会等名
      日本教育学会第80回大会
  • [図書] 多様な子どもの近代―稼ぐ・貰われる・消費する年少者たち(「貰い子たちのゆくえ―昭和戦前期の児童虐待問題にみる子どもの保護の接合と分散」(高橋靖幸))2021

    • 著者名/発表者名
      元森 絵里子、高橋 靖幸、土屋 敦、貞包 英之
    • 総ページ数
      232(82-128)
    • 出版者
      青弓社
    • ISBN
      9784787234964

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公開日: 2022-12-28  

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