本研究の背景にあるのは、PISAを象徴とする学力のグローバリゼーションに影響を受けたカリキュラム改革が学力格差を広げるのではないかという問題認識である。そこで本研究では、米国のカリキュラム改革が学力格差の観点からどのような影響をもたらしているのかという実態を把握するとともに、各学校においてこの改革にどのように対応しているのかを明らかにすることで、同じくカリキュラム改革により学力格差拡大が懸念される日本における示唆を得ようとした。米国のミドルスクールの現地調査を行い、次の3点が明らかになった。 1)米国での教育改革への対応体制の実態把握という点では、特に学力低位層の学力がさらに低下する傾向が確認できた。コモンコアへの対応には、次の二つの方向性が確認できた。一つは、ゲイツ財団などの民間団体によるコンサルテーションを郡レベルで受けるというものである。もう一つは、教員による学習共同体の構築を試みることで省察的な協働体制を作るというものである。 2)社会経済的に不利な子供に対する支援策、という点では、AVID(Advancement via Individual Determination)が、新しいカリキュラムに対応する授業づくりの土壌になっているだけでなく、大学進学に向けた準備プログラムとしての有効性や、教師の学習共同体形成の素地となっている点でも興味深い取り組みであることが確認できた。 3)学力格差縮小に向けた校区全体での支援体制の把握という点では、スクールソーシャルワーカーが果たす役割の大きさや、ホームレス生徒を支援するためのマキニー法の運用、スマートスタートと呼ばれる就学前の包括的支援の枠組みが明らかになった。 本研究で得られた知見は、教育改革と学力格差をめぐる一連の研究に位置づく。今後の課題として、他地域での事例を通じて、学力保障の方策について同定することが求められる。
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