2020年度には、韓国・地方教育庁における「平和・統一教育」への試みとして、京畿道教育庁の事例を取り上げ、考察することができた。 2018年に発表された『平和・統一教育:方向と観点』(統一部)と「平和・統一教育の活性化計画」(教育部)に盛り込まれている「平和・統一教育」について、市・道教育庁で実施している事例として、京畿道教育庁の『初等学校 平和時代を開く統一市民』教科書を分析した。本教科書は、2011年に発表された京畿道教育庁の「平和教育憲章」の精神に基づいた民主・統一・世界市民教育シリーズとして誕生したものであるが、『初等学校 平和時代を開く統一市民』は、教育部発行の道徳科・社会科教科書(統一教育関連教材)に比べ、「日常」の生活の中で、平和、葛藤、和解を考える過程の延長線に、平和・統一の意味を考えさせるという大きい特徴がある。しかし、教科書にある「私たち」(ウリ)の定義が明確ではないため、韓国に住んでいる市民でありながら、韓国の民族には属さない多文化背景を持つ学生にとっては、「平和」と「統一」の議論から排除される恐れがあるなどの課題点もみられる。 他方、現行の「平和・統一教育」の課題として、「平和・統一教育」の概念の不明確さからくる学校現場の混乱、統一教育の運営実態として授業実数の不足などが指摘されているが、平和構築による統一教育のために、持続可能な統一教育の目標を再構築する必要があると思われる。 なお、京畿道教育庁における「平和・統一教育」については、民主・統一・世界市民の市民教育3種教科書の発行や「2020平和統一教育の活性化計画」による地域特殊性を反映した「地域連携の平和統一プログラム開発・インフラ構築」からわかるように、京畿道教育庁におけるこれらの試みが、朝鮮半島における平和のための葛藤解決教育や東アジアの市民性教育に繋がるものとして今後も注目すべきと考えられる。
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