本研究では、離島において、人々の信頼や社会的ネットワークによって構成される社会関係資本が、どのように機能し、子供の教育環境に影響を与えているかを明らかにするために、鹿児島県奄美大島における(1)離島特有の歴史的、地理的特異性を踏まえた社会関係資本の実態と課題の把握、(2)社会関係資本の子供の教育環境への影響、(3)成功事例を踏まえた地域に求められる社会関係資本形成のあり方の検討・考察、により、わが国の離島における子供の教育環境改善に資する社会関係資本の規定要因を検証し、今後、同様の課題を抱える地域に通底する教育施策への知見を提供することを目的とする。 本調査より、奄美大島の社会関係資本の形成について以下の知見が確認された。(1)地域のキーパーソンが中心となり、自治会や地域の団体を通じて地域のネットワークが活用され、社会関係資本が保持、あるいは再形成されている、(2)島独自の行事や芸能を継承する活動を通して、子ども達に地域に対する誇りや愛着が育まれ、社会関係資本の形成に貢献している、(3)上記(1)(2)のような活動を通じ、子ども達に地域内、家族内での社会関係資本が形成される一方、社会関係資本が存在するがゆえに、そのことに安心して、あるいはそれを頼り、学力や高校卒業後や将来のキャリアプランに対する子ども自身や保護者の関心が低いことも指摘される、(4)上記(3)をふまえ、将来、島で安定した仕事に就けることも視野に入れ、キャリア教育の一環として島で必要とされる資格やスキルを身につけられるための施策が模索されている。これは地域内で完結するボンディング(結束型)な社会関係資本と、地域外へのブリッジング(橋渡し型)な社会関係資本を統合した、持続可能な社会関係資本の形成を示唆し得るといえよう。
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