研究課題/領域番号 |
17K04737
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
遠藤 敏明 秋田大学, 教育文化学部, 教授 (70203669)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | スロイド / sloyd / 工芸 / 工作 / 木材 / デザイン / 創造性 / 美術教育 |
研究実績の概要 |
(1)ストックホルムにおいて第二次となる文献と実態の調査をストックホルム近代美術館、北方民族博物館、クルチュール・フーセットにおける国立美術館展やリンシェーピン大学で行った。特に、北方民族博物館においては、「ヘム・オ・ボースタッド展」が開催されており、スウェーデン工芸が受けた影響と発展の様子を、形と色で確認することができた。本展は特に工芸に関心を持つ者、制作に携わる者に対するメッセージが含まれており、重要な知見を得ることができた。これらの内容については、日本クラフトデザイン協会の会報誌「Craft Design」にて公開した。 (2)フェーグレンのテクニーク理論を検討するために、「テルメル」を全文日本語訳資料として作成し、スウェーデンのスロイド教育における中心的な概念の理解を深めた。テルメルにおける諸概念は本来、スロイド教育における重要な概念を説明するものであるが、これらは、「テクニーク」において検討される2つの問題のなかで、最初の「テクニークという用語に包含される概念や事象を、いかに人々が理解するのかという問題において重要な意味を持つ。テクニークと工作・工芸概念が非常に近い位置関係を持っていることが理解できた。 (3)「テクニーク」における第2の問題を単純化すると、「人々は機械的なテクノロジーと電気的コンピューター処理をいかに理解し利用するのか?」ということになるが、これらの理解と検討には、工芸における伝統的な作業内容と、CNCフライス等による造形のためのコンピューター入力による作業を実際に行いながら進めることが有効であり、大学四年生における卒業制作と関連させながら実験を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
『テクニーク』の背景となる諸概念の検討を『テルメル』などを利用しながら継続しつつ、『テクニーク』の導き出している諸問題への検討を行っている。『テクニーク』が導き出す問題が、しばしば非常に大きな領域へと広がりを持つため、実際に学生とともに実践を行うなかで考えることにより、より現実的な展開を可能にする内容となるように配慮した。授業や卒業制作における実践の経過を記録し、観察を継続している。 これまで学生は手道具や簡単な動力機械を利用しながら、木材工芸作品を制作しており、3相動力機械を利用する場合は、教員の補助が必要となる。100Vで稼働する家電の延長とも思われる小型CNCフライスは、非常に多様な役割を果たし、時間的なデメリットを補って余りある結果を導いている。特にパーソナルコンピューターによって稼働するCAM, CAD, CNCソフトは年々高機能になる一方で、多くの学生にとって導入的指導で使用を始められ、使用のみに限れば、直感的な理解が有効である。三相動力機械のルーターや面取り盤では安全を考慮し躊躇する作業も、小型CNCフライスの置換で、個人的に主体的な作業が可能となり、次の発想へとつながるため、時間はかかるが、より創造的な活動を導き出すことが理解された。
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今後の研究の推進方策 |
小型CNCフライスを利用することによる創造プロセスへの影響、手仕事の利点に加えて、これまで三相大型木工機械を加工の際に利用してきた部分(特に材料の準備)への影響等を検討する。これらの理論的な裏付けとしてスウェーデン・スロイド教育学におけるテクニークの概念をさらに検討しつつ、小学校から高校、大学にいたる木材工作工芸領域における有効性を検討する。具体的には、 (1)現在使用している小型CNCフライスシステムを改良しながら、大学の工芸領域における学生指導へ適合させること。 (2)スウェーデン・スロイド教育学におけるテクニーク概念を工作・工芸教育として展開させる。 (3)PCを介した造形プロセスと創造プロセスについてテクニーク理論を通して検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
スウェーデン語文献研究から生じた問題提起に対応する形で、小型CNCフライスや3Dプリンターなどの機器を研究対象者に対して教育利用し、プラクティカルなteknik論研究を進めている。本年度は、研究対象である協力者の卒業により、新しい対象への切り替えが必要となった。新しい対象における研究内容にあわせて、方法と部品の調達費用を調整し実行する必要が生じるが、対象の研究内容決定に時間が必要となり、次年度使用額とした。
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