平成元年度における研究活動の最も具体的な成果は、大学学部学生に対する造形指導に表れている。技術と発想の関係性とプロセスについての検討は、大学学部学生の授業において具体的な検証を行うことができた。ここでは、フェーグレンのteknik理論から、PCの利用と手仕事との関係性を検討することにより、手仕事におけるCNC利用の意義を見出した。 木材工芸において手仕事の熟練(技術・能力の獲得)は重要な要素である。造形における熟練は、新たな発想を導く一方で、熟練の不足はアイデア・発想を萎縮させる可能性がある。発想から検討・試作・制作への流れの中で、造形活動の場合は、実際的な「もの」を媒介としてそれらを確認することが有効であることはこれまでも経験的に理解されてきた。創造プロセスは、しばしば試行錯誤的プロセスをもって進行するが、これらの支援において複数性(反復性)造形が可能となるCNCが重要な役割を果たした。本来ならば、二次元的スケッチや紙やスチレンペーパーなど加工の容易な他素材による模型などから検討を加えていたプロセスを、より近似的な素材を利用し、具体的な検討を加えることができるようになったことが、創造プロセスにより良い影響を与えたと評価できる。一方で、限られた学習時間のなかで、手仕事の技術を獲得することの難しさもある。工作・工芸教育における学ぶべき知識や技術の再選択が必要となってきたと言うことができるだろう。 さらに教員養成における重要な観点の一つとして、造形活動指導における「教材開発」という視点がある。CNCの取り扱いを学んだ教員は、その造形における反復的可能性から、小中学校のクラス単位で独自の教材を準備することが可能となる。CNCの利用は、他素材へと広がりを持つだろう。これらの検討は始まったばかりであり、今後の研究が必要となる。
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