進歩主義と本質主義の対立を、1920 年代~1930 年代の米国の数学教育に遡り、主な主張を調査した。当時のNational Council of Teachers of Mathematics(全米数学教師協議会)やAmerican Mathematics Association(アメリカ数学会)、Progressive Education Association(進歩主義教育協会)における活動や主張を分析し、この対立構造の中で生まれた日本の戦後教育改革期の数学教科書は特徴的なものであり、これを米国の教科書と比較して特徴づけた。 戦中の日本の数学教育再構成運動に影響を与えた1920年代から30年代の米国の数学教育界の動向に着目して、関数概念に関する主張を明らかにした。関数概念に関する主張は、数学を重視しない進歩主義の思想に対峙したものであった。しかし、従来の計算処理や証明を中心とする本質主義を単に主張するものではなく、数学を学ぶことが思考の様式を指導するものであるという主張に基づくものであった。このため、関数を具体的な事象から取り上げる事、数学の各分野において関数関係を扱う内容がある事、関数概念の本質を思考の様式と捉える事といった主張が、戦中の日本の数学教育に関数が取り入れられた背景にあると結論づけた。 戦中の数学教育を特徴づける数学教育再構成運動において作られた教授要目案とこれ以前の教科書を検討することによって、数学教育再構成運動における新たな視点や、そのもとにあった数学教育論を検討した。再構成運動の中心となった日本中等教育数学会において設置された数学教育再構成研究会が3地区で作った教授要目案には、指導内容に共通点が見られる事や、教授要目案の特徴として、具体的な事象との関連で数学の内容を取り上げることや、数学的な内容の繋がりが重視されていたことを明らかにした。
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