本研究の目的は、音楽の真正性に着目した音楽科の教科内容の構築およびそのプログラムを開発することである。 第3年次はこれまでの研究成果を踏まえ、音楽の真正性とは一体なにか、またそれに基づく音楽科の授業実践はどのような内容になるのか、理論と実践研究の成果を踏まえたプログラム開発を目的とした。 まず理論研究としてデューイの「リズム」概念の見直しを行なった。デューイの芸術論を検討したところ、自然と芸術とを連続してつないでいるものは「拮抗し合うエネルギー」であり、それがリズムの根幹をなすものであることが明らかとなった。つまり音楽の真正性はこの自然から芸術をつなぐ基軸としての「リズム」にあるという結論を見出した。この研究成果については日本デューイ学会の『日本デューイ学会紀要』第60号に論文として掲載された。 一方、実践研究では、デューイの「リズム」概念を手がかりに、子どもの音楽経験における表現の論理の形成過程を明らかにした。表現の論理をデューイのリズム概念すなわち「拮抗し合うエネルギー」という視点からとらえたことによって、子どもの生活経験と音楽表現との間に連続性を見出すことができた。この研究成果については、日本学校音楽教育実践学会第24回全国大会にて自由研究発表を行い、その要旨は『学校音楽教育実践論集』第4号に掲載された。 以上より、本研究では音楽の真正性は自然と芸術をつなぐ「リズム」にあることを見出し、それは「拮抗し合うエネルギー」を具現化したものであることを理論的に証明した。またそれを保証した音楽活動を行なうことで、子どもは自らの生命のリズムを実感することができ、生命力の喚起につながると考える。音楽の真正性に着目した教科内容の構築とそのプログラムの開発とはすなわち、その音楽はどのような自然のリズムを基盤として生まれてきたのか、人間と芸術との根源的なかかわりに着目することである。
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