研究課題/領域番号 |
17K04779
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研究機関 | 兵庫教育大学 |
研究代表者 |
勝見 健史 兵庫教育大学, 学校教育研究科, 教授 (20411100)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 鑑識眼 / 評価 / 国語科単元学習 / 言語運用 / 自律性 |
研究実績の概要 |
本研究は、次期学習指導要領の国語科がめざす能動的な課題解決の学習プロセスにおいて、学習者の言語運用の質を捉え、学習者に関与しつつ質を高めていく新たな評価方法を開発することが目的である。かつて我が国で学習者主体の国語科単元学習が「活動あって力つかず」として批判された経緯を踏まえれば、活動方法の模索のみならず、明確な評価方法を検討し定位しておかなければならないことは明白である。 当該年度のおいては、学習者の主体的な言語運用をめざす国語科単元学習の変遷における評価論について、文献・論文等の実践資料によって通時的視点から考察し,国語科単元学習が内包する評価論の問題点の存在を焦点化した。とりわけ、戦後初期(昭和20年代)の国語科単元学習の評価の実相について、当時の実践誌の第一次資料の分析、および、当時の実践に直接的・間接的に関与していた教員へのインタビューの分析等によって得られた知見を、当時の評価論の理想と限界を分岐する分水嶺として焦点化し、当時の国語単元学習が克服すべき評価の問題点として一般化を図った。さらに、焦点化された戦後初期の国語科単元学習の評価論の脆弱性が、その後の国語単元学習の評価論で克服されたのかについて通時的考察を行い、反復されている課題を特定することによって、今後の主体的な言語運用力を育成する国語科学習でめざすべき評価論を「学習に還流する評価」として定位した。 さらに、「学習に還流する評価」を今後の学校教育現場で実現するために、学習プロセスに設定する児童と教師の「対話」の場における教師の質的評価の力量である「鑑識眼」の在り方に着目し、指導者側に隠蔽された「外側からの静的な評価」ではなく、学習者固有の学びの文脈と並走しながら「自律的な言語運用の促進に関与する動的な評価」として働きかけていくことの重要性について新たな評価論の必要性を示した
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,主体的な言語運用をめざす今後の国語科学習における評価の特質及び新たな可能性を「教育鑑識眼」の視点から考察する実践的研究であり,次の2点を明らかにすることを目的としている。第一に,主体的な言語運用力の育成をめざした我が国の国語単元学習の実践の系譜において,評価論が克服すべき課題を通時的視点から明らかにすることである。第二に,今後の学校教育に求められる課題解決学習の学力評価の方法を,国語単元学習における評価に焦点を当てて論じ,そこに内包される鑑識眼による評価の現代的意義について実践研究を通して明らかにすることである。本研究によって、国語科の評価史研究、とりわけ今後の「思考力・判断力・表現力」を育成する国語科学習の評価論に新たな知見を提起するものである。 当該年度のおいては、上記第一の点について、国語科単元学習の評価論を戦後初期と新単元学習期に着目して通時的に考察し、時代を縦断して反復されている課題の存在について焦点化することができた。また、上記第二の点については、通時的考察から明らかになった反復される課題の克服にあたって、「学習に還流する評価」を実現するための教師の質的な関与が今後必要視される点を新たな評価論の方向として定位し、学習プロセスに並走しながら学習状況の質をみとり、自律的な学習促進に関与する動的な鑑識眼評価の必要性を明らかにした。これらの当該年度の研究成果は、全国大学国語教育学会および早稲田大学国語教育学会で発表し、参加者からの高い関心を得た。これら当該年度の研究成果は、今後の実証授業の基礎研究として位置づくものであり、新たな評価方法を学校教育現場に有用なものとして提案していくために不可欠な情報となる。 以上の点から、本研究の進展における当該年度の研究予定はほぼ順調に進んでおり、次年度以降の実践を通した検証作業の視座を準備できた状況であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究については、次の2点を行う。①「鑑識眼」の理論の特質・評価の課題を踏まえた、学習者の主体的な言語運用プロセスに関与する動的な評価方法の構築②協力学校への新しい評価方法の共有化と、実証授業の考察を通した評価方法の精緻化、である。 ①については、動的な鑑識眼評価を内包した国語科単元学習の授業デザインを立案し,実証授業に向けた準備を進める。その際、検証の内容と方法を明確にして、協力学校の実践者と協働的に検討を重ねながら実証授業に向けた具体的準備を進めるものとする。 ②については、実証授業の結果の考察を通して、国語科単元学習の評価論が抱えてきた課題に対する、動的な鑑識眼評価の意義と有効性、限界性について考察を行い、実現可能性の高い評価論として構築する。とりわけ実証授業では、学習プロセスで教師の評価の関与を受けながら言語運用を改善していく学習者の状況を固有の事例単位で記述し、本研究における「自律的な言語運用の改善に関与する動的な評価」としての新たな評価方法の有効性について分析を行う。このような協力学校での試行実践の蓄積を通して、実効性のある新しい評価方法として協働的に構築を図っていくものとする。また、必要に応じて、協力学校の各年齢層の教師集団と協議し意見を聴取しながら、省察を通して評価方法を修正し、汎用可能な方法論として精緻化させていく。 なお、実証授業によって明らかになる「学習に還流するための動的な鑑識眼評価」の内実を、今後の国語科の学習指導で必要視される研究成果として、関連学会における口頭発表、論文による発表、書物や社会的な講演等の場で広く提案していくものとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度末に若干の残額が生じているのは、実証授業にかかわる授業協力者との事前打ち合わせ、および授業者へのインタビューの実施が3月後半にずれ込んだため、実施する次年度当初の旅費等として使用するものである。この残額も含めた次年度の助成金は、研究の進展のために必要な経費として次の用途に使用するものである。 第一に、協力学校における協力学校における授業実践・授業研究会の実施・協議・記録である。日常的な打ち合わせは電子メールで行うが、実証授業への参画等、必要に応じて訪問をすることである。授業実践校訪問には「実践協力校打ち合わせ旅費」を充てる。授業記録補助者にかかる費用は「データ記録整理謝金」を充てるものとする。特に、授業実践の記録においては授業者に焦点化した映像および音声記録を行う。記録に必要な機器については「物品費」、記録メディアには「消耗品費」、実証授業に必要な学習ファイル等の学習材の費用は「消耗品費」を充てるものとする。第二に、映像・音声記録の記録分析補助、文字化等のデータ資料整理を行うことである。外部委託を行う場合は「データ記録整理謝金」を充てるものとする。第三に、関連する研究者との検討の場を設定し、研究内容・方法について形成的に研究展開の改善を図うことである。当該の研究者との打ち合わせ、および、会議設定については、「研究推進にかかわる打ち合わせ旅費」「会場費」を充てるものとする。
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