研究課題/領域番号 |
17K04779
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研究機関 | 兵庫教育大学 |
研究代表者 |
勝見 健史 兵庫教育大学, 学校教育研究科, 教授 (20411100)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 鑑識眼 / 評価 / 国語科単元学習 / 言語運用 / 自律性 / 学習への還流 |
研究実績の概要 |
本研究は、次期学習指導要領の国語科がめざす能動的な課題解決プロセスにおいて、学習者の言語運用の質を捉え、学習者に関与しつつ質を高めていく、教師の協働的・相談的な新たな評価方法を開発することが目的である。かつて我が国で学習者主体の国語単元学習が「活動あって力つかず」として批判された経緯を踏まえれば、児童の主体的学習における評価方法を明確に検討・定位しておくことは重要である。 当該年度は、学校教育現場の実践への長期にわたる参与観察の実施と結果分析を行った。具体的には、「学習に還流する評価」具現化に向けた視座、実践研究にかかわる手続きに基づき、公立小学校の熟達教師、若手教師の授業者を特定し、それぞれの国語科単元学習実践に参与観察を行った(平成30年6月末~12月初)。熟達教師の授業については、単元デザイン相談に7回、単元開始後の「対話」場面に5回訪問し、インタビュー、録画、録音等によるデータ収集およびその分析を行った。若手教諭の授業については、単元デザイン相談に7回、単元開始後の「対話」場面に3回訪問、インタビュー、録画、録音等によるデータ収集およびその分析を行った。得られた結果の分析は、関連する研究者の助言を適宜受けながら質的分析法に基づき精緻に実施し、児童主体の国語単元学習に還流する「鑑識眼」による動的な評価の特質が焦点化された。 また、当該校の授業者との話し合いを重ねながら、本研究の知見が当該校の授業研究に還流し、児童と教師にとって意義あるものとして機能するよう「理論の実践化(theory into practice)」と「実践の中の理論(theory in practice)」の往還に配慮した。 現在までの成果の一部を、2018年6月10日開催の第25回授業実践フォーラム(文部科学省後援)の全体会鼎談、および、国語科分科会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,国語単元学習における評価の特質及び新たな可能性を「教育鑑識眼」の視点から考察する実践的研究であり,第一に,我が国の国語単元学習の実践の系譜において,国語単元学習の評価論が克服すべき課題を通時的視点から明らかにすること、第二に,今後の学校教育に求められる課題解決学習の学力評価の方法を,国語単元学習における評価に焦点を当てて論じ,そこに内包される鑑識眼による評価の現代的意義について実践研究を通して明らかにすることを目的としている。本研究によって、国語科の評価史研究、とりわけ国語単元学習の評価論に新たな知見を提起するものである。 第一の点については、これまでの研究で国語科単元学習の変遷における評価の内実について、文献・論文等の実践資料によって通時的視点から考察し,国語科単元学習が内包する評価論の課題の存在を焦点化された。とりわけ、戦後初期(昭和20年代)の学校教育現場における国語科単元学習の評価の実相について、当時の実践誌の第一次資料の分析、および当時の実践に直接的・間接的に関与していた教員へのインタビューの分析等によって得られた知見を、当時の評価論の理想と限界を分岐する分水嶺として定位し、国語科評価史研究において克服すべき問題点として一般化を行った。 第二の点については、時代を縦断して反復されている課題の存在について焦点化し、その克服に向けた「学習に還流する評価」を具現化する「動的な鑑識眼評価」を機能させる実践計画を精緻に立案し、その検証授業を試みた。検証授業から得られたデータの分析結果は、児童主体の国語単元学習ならではの特質を有しているものが抽出されており、これまでの評価論に新たな視点を提起できるものである。 以上の点から、本研究の進展における研究予定はほぼ順調に進んでおり、次年度の研究全体の精緻化・理論化に向けた準備が整った状況であるいえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究については、これまでの通時的考察から焦点化した国語単元学習の評価論における課題の抽出と、実践的研究によって明らかになった「学習に還流するための動的鑑識眼評価」の意義と方法とを包摂し、一連の理論として精緻化・構築を図る。 本研究は「鑑識眼評価」の特質から、あらゆる学校教育現場に汎用可能な一般化可能性を一定程度追究しつつも、むしろ、固有の文脈的・物語的な要素を含むローカルな状況下の有効性を問うことを重視するものである。したがって、教師固有のライフヒストリーに起因する実践的見識と関連付けながら行った研究者の第一次解釈に対して教師がコメントし、それを踏まえて研究者が再解釈を行う。こうした協働的な解釈を試みることによって、解釈の相互主観的な妥当性を高めるものとする。このような手続きを通して、「鑑識眼評価」が学習に還流する上で必要となることは何かについてさらに精緻化し、「学習に還流する評価」に機能する「動的な鑑識眼評価」の要件として定位する。 「動的な鑑識眼評価」の評価論の構築と、国語科評価論全体からの構造的提案を行うために、これまでの研究成果を整理・構築し、論文化を行う。また、「学習に還流する動的な鑑識眼評価」は、今後の主体的な課題解決学習における評価論の手がかりとなることから、研究成果を学会における口頭発表、論文による発表、書物や社会的な講演の場で広く提案していくものとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度末に若干の残額が生じているのは、次年度における遠方(宮城県)での学会参加(発表)にあたっての旅費、研究全体構築に際しての内容・方法に関わる助言を受けるための早稲田大学等への旅費、および、授業者への分析結果のフィードバックによる理論の精緻化を図るための丹波市への旅費等、複数回の想定以上の次年度の出費の必要性が生じているためである。 次年度は、成果の精緻化を図り、新たな評価論として理論化し、学会および学校教育に関わる研究会等で誌上・口頭発表することを重点とするため、上記の内容に加えて論文化のための印刷関連費用、それに関わる機器や文献の購入の必要性が見込まれる。印刷・整理・記録・保存に関しては、「物品費」「消耗品費」、外部委託を行う場合は、「データ記録整理謝金」、研究者と学校教育現場の教員との検討会等の開催に際しては「会場費」を充てるものとする。 以上、残額も含めた次年度の助成金は、最終年度の研究の進展のために必要な経費である。
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