1990年代以降、美術と教育の世界は大きな変動を見せた。教育の世界では、情報化とグローバル化のなかで成熟期近代の教育改革が進行し、コンピテンス型学力観への移行が叫ばれた。さまざまな批判もあるが、地球的な意識が浮上し、情報化の流れと重なりつつ、教育変革の底流をなしている。他方、美術(アート)の世界では、90年代以降、メディアアートと参加型アートの動きが注目される。共に近代的なアートの枠組みを越えて、新たなコミュニケーションモードを創造する試みであり、政治を含む社会意識や情報を含む環境意識を強く背景に持つ。メディアアートにおけるさまざまなボーダーを越えていくコミュニケーション実践や、参加型アートにおける非西洋的世界(東南アジアや南米など)からの強いメッセージ性は、教育に大きな示唆を与えている。 21世紀の美術教育に求められているものは、近代的な教育と美術の制度を乗り越えて、新たな創造的コミュニケーションのなかに、創造性を培う教育の内容と方法を模索することであろう。とはいえ、創造は過去のメディアやモードと無縁の場所に生まれる訳ではないし、「学び」は「教え」と密接な関係を持って教育課程のなかに位置づけられなければならない。新たな創造の学びは、過去のーとりわけ近代(モダーン)のー「アートの教え」に支えられる必要がある。 本研究では美術教育のカリキュラムを、1970年代までのモダニズムアートと1990年代以降のアートによる重層的な構造として構想した。本年度においては、それぞれの具体的かつ典型的な題材開発を行った。参加型アートにおける題材開発が十分に行えなかったものの、カリキュラム構造をより明確にすることができた。
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