研究課題/領域番号 |
17K04793
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
石井 由理 山口大学, 教育学部, 教授 (70304467)
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研究分担者 |
福田 隆眞 山口大学, その他部局等, 名誉教授 (00142761)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 国民文化 / アジアの芸術教育 / 学校教育 / 国民アイデンティティ |
研究実績の概要 |
令和3年度は、新型コロナ感染症パンデミックのために令和2年度に実施ができなかった、音楽分野と美術分野のインドネシアでの最終調査を実施し、成果発表をする予定であったが、2年度に引き続き海外での調査ができなかったため、いずれの分野においても日本国内に在住する外国人研究者からの聞き取りや、インターネットによる海外の研究者との共同研究に方向性をやや変更して実施した。これらの調査に基づいて、音楽分野においては令和2年度末にe-メールによって収集した追加データを加えた分析を進め、その成果を2本の論文にまとめた。美術分野では、アジアにおける近代美術の四層構造の理論の精緻化を進め、その理論を検証するためにケーススタディを行い、2本の論文として発表した。 音楽分野の論文のうちの1篇は、令和2年度末にアンケート調査を実施した「インドネシアの音楽」「我が国の音楽」「郷土の音楽」に対するバリ島の大学生の回答を分析し、回答者がこれらの概念に当たる曲を明確に区別していることを明らかにしたものである。中でも「我が国の音楽」に対するナショナル・ソングの回答の多さは、国家が推進する国民共通の音楽文化形成のための音楽教育の結果であると考えられる。また他の1篇では、回答者の第一言語の違いと彼らが日常聞いている曲の歌詞の言語の関係から、大学生にとって国の共通語であるインドネシア語と州のローカル言語が意味するものを明らかにすることを試みた。美術分野の論文のうちの一篇は、前述の四層構造理論を日本、韓国、台湾、シンガポール、マレーシア、インドネシア、ベトナムに当てはめて分析したものであり、他の1篇はその中のベトナムの教育課程に焦点を当ててより詳細に四層構造理論による現状分析をしたものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本課題では、音楽分野においては当初の目的であったシンガポールと台湾での教科書調査と音楽研究者へのインタビューによる国民文化形成と音楽教育およびそこに現れた言語との関係に関する調査は完了し、韓国におけるアンケート調査と分析も終え、それぞれの音楽文化と音楽教育に現れたグローバル化時代の国民文化形成の試みを成果として発表してきた。しかしインドネシアのケーススタディに関しては、バリ島での調査は終えたものの、インドネシアで最も影響力の強いローカル言語であるジャワ語圏での調査ができていない。このため、インドネシアではむしろ例外的なバリのケースとの比較ができないままに中断している。美術分野においては、アジアの近代美術の四層構造をアジア各国に当てはめて検証してきており、令和2年度は過去に収集したデータとe-メールおよび電話での韓国の研究者のレヴューに基づいて韓国に焦点を当てた研究を行った。インドネシアに関しても四層構造の精緻な検証をするために現地関係者の聞き取り調査と文献収集を計画していたが、フィールド調査ができなかったため、十分なデータが入手できていない。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ感染症の状況を見つつ、令和4年度後半にインドネシアでのフィールド調査実施を目指す方針であるが、現時点での見通しが立っていない。このため、年度前半では、これまでの現地でのアンケート調査やインタビュー調査で得たデータの分析・考察を、文献研究を充実させることによってより一層質の高いものにしていく。その手段の一つとして、これまでに終えた各国の研究結果を様々な形で比較分析していくことがあげられる。音楽分野においては、7月の国際学会でPost-colonial music educationの共通テーマのもと、ともに日本の植民地時代の音楽教育を経験した韓国と台湾の国民音楽文化形成の対比を行うほか、多民族国家であるシンガポールとインドネシアの国民音楽文化形成へのアプローチの違いを比較研究する予定である。美術分野においては、四層構造の理論的精緻化の課題を継続するため、国内やインターネットでのインタビューが可能な外国人研究者のリソースがある国に焦点を当てて理論の検証を進める。また、音楽分野同様に、既存のデータを用いた様々な角度からの比較研究による検証も試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度のインドネシアでのフィールド調査ができず、また成果発表のための学会出張もなかったため、旅費の支出がなく、次年度使用額が生じた。令和3年度からの実施延期をした同フィールド調査を令和4年度に行う際の旅費として次年度使用額の大部分を使用する計画である。また、成果発表の一部として英語論文を作成する際の英文校閲費および文献研究のための文献購入費としても使用予定である。
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