本研究は、21世紀を迎えグローバル化や多文化化といった社会変容が一層進展する我が国の社会的要請に応え、自国認識と対外認識が相互に結びついた歴史認識の統一的把握と育成をはかる歴史教育論と、その学習内容及び学習方法上の課題について考究する基礎的研究である。 令和元年度は、ドイツ中等歴史教育を対象としたこれまでの研究課題に基づく作業を継続しつつ、日本における中等歴史教育との対比に向けて、歴史教育学に関する文献調査、及び歴史教科書の使用方法や作成方針に関する調査分析に取り組んだ。あわせて、自国史と外国史を統一的に扱う歴史学習を支える理論のあり方について検討した。このような課題に関して得られた実績は、以下のとおりである。 1.自国史と外国史との近接及び相関を示す学習内容として、社会及び国家の歴史認識をめぐる葛藤が直接的に現れる「国境」をめぐる問題とその扱いは、社会共通の経験として教育的な価値を有する。国境地域における主権の移譲や遷移は、現状を正当化するための歴史認識を必要としつつ、その働きかけとしての歴史教育にも変容を迫る。この変容自体を問い直すことは、新たな歴史認識とその必要性を求めた歴史的社会自体の考察となる。 2.「国境」をめぐる二国間の関係を捉える視点は、周辺地域から国家の変容を捉えるだけでなく、より複合的な視点から考察することを可能にする。これは、過去対立した二国間に共通の文化的交流と発展に焦点を当て、共有すべき歴史を次世代の自国民に引き継ぐ教育活動を進める必要性にも接続する。 3.日本において「国境」「領土」をめぐる問題は、過去の社会の判断、結果であると同時に、現在の日本社会の向き合う現実そのものである。考察の視点を空間的に遷移させると同時に、考察の時間的な起点を様々に設定することにより、自国認識の相対化と同時に対外認識との統一的把握を図る歴史学習論の可能性を追究しうる。
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