研究の理論面において,昨年度まで構築した「関数の学習モデル」に基づき,(Ⅰ)事象の変化を量化して捉える,つまり事象から変量を抽出する,(Ⅱ)抽出した2つの変量を対応させる,に関する途上概念を形成するための学習の枠組みとして,「数値を用いない学習の段階」を設定している。また,数値を用いない学習の段階で形成を目指す途上概念を「論理構造をもつ質的な(Ⅰ)と(Ⅱ)に関する途上概念」と定義し,この途上概念形成のための学習指導のあり方を,先行研究の知見を生かしながら具体化した。 研究の実践面において,予備教育実践を行い,教材と学習の枠組みが児童の認識と学習に適していることを検証し,その知見を生かして教育実践(1)と(2)を行い,その有効性を検証した。小学校第4学年の児童(1名)を対象とした予備教育実践では,教材と学習内容が児童に適したものであることと,目標とする途上概念が形成されることがわかった。また,課題点も明らかとなった。予備教育実践の知見を生かして,第4学年の児童(2名)を対象とした教育実践(1)を行い,途上概念は数値を用いない学習を通して形成されることが示された。さらに,小学校の教育活動の中で第4学年の児童24名を対象にした教育実践(2)から,程度の差はあるが,大半の児童に論理構造をもった質的な(Ⅰ)と(Ⅱ)に関する途上概念が学習を通して一定形成されることが示された。以上のことから,時間を主軸にした児童の感覚・運動経験に基づく教材は有効であること,一方で,学習で考察対象であった事象以外の事象では,論理構造をもった質的な(Ⅰ)と(Ⅱ)を有効に働かせることが容易でないことが得られた。
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