研究課題/領域番号 |
17K04842
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
鈴木 一史 茨城大学, 教育学部, 教授 (30635610)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 語彙 / 国語教育 / 言語観 / 語彙指導 / 授業構築 / 伝統的言語文化 / 昔話 |
研究実績の概要 |
本年度の研究成果として、言語力を授業者の言語観や語彙という観点としてとらえ直し、語彙指導としての網羅的知見を得ることができたことがあげられる。具体的には、初等教育課程での教員は語彙という観点で教材を捉えることが少なく、また中等教育課程国語科の教員でも語彙指導の在り方に悩みを抱えていることが分かった。これは、茨城県内の小学校・中学校での教員へのインタビューやアンケートなどの研究調査で判明したことである。このことから本年度は語彙指導についての研究をまとめ「語彙指導入門」の書籍を上梓した。これにより、本研究知見が広く学校教育現場で浸透すると考える。 また、学習指導要領の改訂には「語彙指導の充実」が示されており、特に学力との関連性が指摘されている。そこで、学力と関わる語彙についての分析調査を行った。それによれば、論理的思考と密接な関連がある語彙などが導き出され、これらの語彙によって学力も向上することが推測される。これは、本学の附属中学校を中心とした中学生の作文と、学習者の国語を中心とした学力テストの結果を対照させて導き出したものである。本研究の重要性として、これから10年行われていく学習指導要領の改善の具体的な視点が得られたことが大きい。 さらに、授業力向上プログラムとして、「昔話」を取り入れることで伝統的言語文化の授業開発を行った。教員養成において昔話は伝統的な言語文化的要素のみならず、教員の言語力の向上にも寄与することが、学生へのアンケート結果で確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はほぼ順調に推移している。研究計画では、本年度は以下の4点について計画していた。それらについての進捗・成果については以下のとおりである。 ①研究の主軸:学習プログラムの実践と学習者の作文などの収集による、学習成果や語彙能力の伸長の検証。この計画はほぼ達成され、作文データと学習者成績の関連性を確認することができた。作文に現れる語彙の中で、学力と関わる語彙について導き出した。しかし、語彙のデータは膨大であり、このほかにも学力と関わる語彙があることが考えられる。したがって、完成された研究知見ではなく、今後の継続的な研究が必要である。 ②分析結果について、データおよびネット上にて公開し、それぞれの教員のデータと対照してもらうことにより、教員の独自性や普遍性を導き出す。この検証の繰り返しによって、授業者と学習者の語彙力についての網羅的情報と知見を得る。このことについては、教育現場の教諭との研究協議を定期的に行ったことで、ほぼ達成されている。また、「語彙指導入門」を上梓することにより、インターネット上のデータ公開はしていないが、対象を捉えての公開と書籍となったことは、学校教育現場にとってよりよい方法であったと考える。 ③他の研究者との協同により、また、日本語学の研究成果との連携により、研究ネットワークを築くことで共有していく。このことについては、日本語学研究者との論理語彙一覧を作り上げることができた。この公開は、2020年度の学会発表の予定である。 ④学習者の漢字能力については、解釈学会等の学会が先駆的であり、中国での大会を見据えながら研究を行い、そこでの討議を重ねつつ、語彙教育の一つとして漢字の視点を取り入れた分析を行う。このことについては、伝統的言語文化の研究までは進めてきたが、解釈学会等での国際学会が延期となったため、研究の進捗状況としては計画通りに進まなかった項目である。
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今後の研究の推進方策 |
本来は2019年度で研究を終了する予定であったが、研究途上でPISA調査の結果が発表されたこともあり、国語の指導にICTの観点を入れるべきであることが判明した。また、語彙分析においても、学習者の作文には、学力と関連を有する語彙がさらに含まれていることが予想される。また、昨年度の国際学会において発表予定であった成果研究が延期となっている。以上のようなことにより、研究計画を1年延長した。よって、今後の研究推進の方策として、まずは国語教育や語彙力とICTとの関連性を捉えることと、最終年度として研究知見の発表方法を構築することである。具体的には、ICTに関しては、教員養成における教材開発としてICTを使用した教材開発と授業構築の可能性について、ICT模擬授業を行うことで進めていく。また、知見の公開方法としては、学会発表はもとより教員の育成や指導・研修の一環として教員研修センターや公開研究会での場を捉えて公開していくことを想定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由の最たるものは、解釈学会主催の国際学会が延期となったことであり、それに伴う旅費が次年度に繰り越されているためである。その他としては、最終年度の成果報告書の作成・配付が想定されており、最終年度の延長のため次年度の使用額が生じているためである。 使用計画について、2020年度はすでに中国で開催予定であった国際学会が中止となっているため、旅費は国内の研究調査に充てる。具体的には、本研究を拡充するために、伝統的言語文化における「昔話」の調査である。また、研究報告として、インターネットなどを通して、研究成果の開示をしていくための費用に充てる。
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