本研究は、これまで教育学の分野ではほとんど解明されてこなかったスイスの価値教育について、今日の義務教育制度統一化の動きのなかで積極的に教育改革をリードしている「スイスフランス語圏における教育計画(Plan d'etudes romand)」(以下、「スイスPER」)に着目し、なかでも価値教育と関連の深い「倫理・宗教文化・市民性への教育」に焦点をあて、その詳細を解明することを目的とするものである。 とくに、本研究では理論面だけでなく、「スイスPER」の教育計画に基づき、実際に開発されてきた教材や指導書の分析、評価や指導者養成の方法など、より実践面に踏み込んだ解明をめざそうとするものである。 3年間の実施計画の最終年度にあたる平成31/令和元年度は、「研究全体の総括」と「研究成果の発表」を行った。具体的には「スイスPER」の「倫理と宗教文化」の現状と課題について、フランス語圏のほとんどの州で教材を提供してきた実績をもつアゴラ出版(元エンビロ出版)へのインタビュー調査の結果や、アゴラ出版を通じて入手することのできた「倫理・宗教文化」用の教材分析、さらに幼小中高への学校訪問や授業参観を通して得た情報等を踏まえながら「スイスPER」における「倫理と宗教文化」教育の各州における取組状況や課題について、研究分担者の細戸一佳氏(帝京大学)およびミカエル・デルヴロワ氏(東京大学非常勤)とともに省察と総括を行った。そして、それらの研究成果を学会誌や著書を通じて公表した。
|