研究課題/領域番号 |
17K04857
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
森脇 健夫 三重大学, 教育学部, 教授 (20174469)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 熟練教師の「熟練性」 / 目標構造の多層化 / めあて・ふりかえり / 実践知と技術知 / ライフヒストリーインタビュー |
研究実績の概要 |
前年度までの研究に引き続き、初任期教師と熟練教師の授業の比較、とくに目標構造の多層化という点から比較研究を行った。先行研究(佐藤、秋田1991)では、初任期教師と熟練教師の思考様式の違い(即興的思考、不確定な状況への敏感で主体的な関与、多元的な視点の統合、文脈化、問題表象の再構成)を5点に要約している。知識の集積や技術の適応といった従来の技術主義的な教師の力量の理解から脱却しようとする試みとして極めて高く評価できる。しかしながら、上記の思考様式の具体化においては、授業における知識、技術ときわめて密接に結びついていることも指摘しておかなればならない。教師の思考様式は、持っている知や技術の基盤の上に成り立っており、さまざまな働きかけと一体となっているからである。 筆者は実践的知識と授業についての知識・技術の架け橋として、目標構造があるのではないかと仮説をたてた。初任期教師の場合、単元目標等の長いスパンの中で授業は位置付けなければならないとされているが、多くの場合、目標は一時間の授業目標として認知されているのに対して、熟練教師の場合は、一時間の授業目標だけではなく、単元目標、教科の目標(一年間から教科が育てるべき資質・能力まで)として意識され、さらには、教科を通して育てるべき人間(教育基本法に言われる人格の完成)までもが意識されている。そのことによって一時間の授業の中で臨機応変に「出来事」に対応したり、個別の学習者への多様な対応が可能となっている。 コロナ禍の中ではあったが、上の仮説についての検証事例をいくつか集めることができた。さらには、「めあて・ふりかえり」という授業で明示される言説においても、初任期の教師と熟練教師の違いを明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍のもとではあったが、波のおさまっていた時期に、いくつかの学校を訪問することができ、校内研究会への参加、校内において行われている授業の全体的な参観を通して、目標構造の多層化の過程を比較観察することができた。 その中で、とくに「めあて」に焦点化することで、明示的な言説の中に「熟練性」を発見するという研究的な方法論についてのアイディアを得、熟練教師のライフヒストリーインタビューとともに、一般的な状況を知る技法を手にいれることができた。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍の波の間をぬって学校訪問を行い、いくつかの事例を得ることができ、その中で全体を概観する技法(「めあて」の収集と分析)を手に入れたが、やはり事例収集の不足等の課題があったので、2022年度まで延長することにした。22年度はできるだけ多くの事例を収集し、目標構造の多層化をめあての深化と関連させ、初任教師がどのようにめあての再構成によって自分の授業を発展・進化させていけばよいのか、を仮説的に提案し、その検証を図っていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)本研究においては、各学校における授業参観、教師へのインタビューをデータとして用いるが、コロナ禍にあっては、思うようにデータを収集することができなかった。コロナ禍の波の間の期間、いくつかの学校に訪問し教師へのインタビューはできたが、一定の確かな結論を得るにはサンプル数が不足している。 (使用計画)一年研究期間を延長し、学校訪問を実施し、データを補いながら分析・考察を進め、成果発表をする予定である。
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