研究課題/領域番号 |
17K04867
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
松岡 敬興 山口大学, 教育学部, 准教授 (10510539)
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研究分担者 |
蜂谷 昌之 広島大学, 教育学研究科, 准教授 (60510542)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 特別活動 / いじめ / ガイダンス / 学級活動 / 人間関係 / 自己理解 / 他者理解 / 共感性 |
研究実績の概要 |
本研究では、 学級経営におけるいじめをはじめとする問題行動の教育的予防を推進するために、ガイダンスプログラムによる授業実践に取り組み、その教育効果を分析・検討する。本プログラムを用いて児童生徒一人一人が、自己理解・他者理解を深めることを目指し、グループによる協働的描画表現活動に取り組む。これまでに開発した「人間関係育成プログラム」の手順と内容を見直し改善を加えた後、A県B市の公立C小学校の高学年(第6学年の2学級を対象)において授業を実施した。 本年度は協働的描画表現活動にみる改善点として、新たに児童生徒による本取組への留意事項に、互いに仲間の思いを予想しながら、大型画用紙全体を俯瞰しつつ制作活動に参画することを強調した。また、取組の教育効果の検討・分析として、①児童生徒の自尊感情や自己肯定感の変容、②個人の傾向の見取りをもとにした個別指導の方向性の考察、及び③学級経営について学級集団の在り方から見直しを進めた。本取組が、学級経営の系統的・計画的な取組の一助となるように、実践に係る留意事項を正確に絞り込み整理した。 また本取組の教育効果については、信頼性を高めるためにその可視化に努め、量的調査として『自尊感情尺度(東京都版)』(2011)を用い、質的調査として取組に係る質問項目への自由記述、及び授業時の映像録画を用いて、発言、動き、表情、しぐさなどノンバーバルな情報をも加味して検討・分析を進めた。それぞれのデータについて、その事実(数値、記述、観察記録)が具体的に何を意味しているのか、より深く考察することで精緻さを追求した。 特別活動の学級活動では、全ての児童生徒による集団活動である特性を生かした、望ましい人間関係づくりを目ざした効果的な手だてが求められている。研究の成果物である汎用性の高いガイダンスプログラムを、年間計画に意図的に位置づけることで、その教育効果を希求する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、学級担任を対象にいじめの未然予防を図るための一助として、汎用性のあるガイダンスプログラムを開発し、その授業実践を通して教育効果を検証し、簡易に活用できる水準へと改善を反芻する。これまでに児童生徒の自己理解・他者理解を促し相互理解を深める取組として、4人1組で取り組む協働的描画表現活動を開発した。 平成29年度にD県E市公立F小学校において、トライアルに取り組み、各種データをもとにその分析、検討を進めた。平成30年度には、その改善プランを作成し、小中学生(小は高学年)を対象に、ひらめきときめきサイエンス(日本学術振興会)において、再度実践した。児童生徒が自己開示し易い環境づくりのためのアイスブレイク、本取組の意図を正確に伝え自主的に自己表現すること、の両者を重視することが汎用性を高める。一方、協働的描画表現活動を効果的に展開するうえで、指導者及び児童生徒への留意事項の焦点化が課題として残された。 令和元年度は、これまでの取組を通して見出された課題を精査のうえ改善プランを作成し、A県B市公立C小学校において高学年(第6学年の2学級)を対象に、授業を実践した。プログラムの汎用性を高めるうえで、教育効果の可視化を図り、信頼性を高めるための各種データを量的かつ質的にも丁寧に収集し、その留意事項を精緻に追求できた。 今後は、指導者が学級経営において、年間計画に意図的・計画的に位置づけ、教育効果が期待でき、活用し易いレベルへの改善が肝要である。またカリキュラムマネジメントの視点から、ガイダンスプログラムの内容を踏まえ、各教科、道徳科、特別活動、総合的な学習の時間との関連づけを図り、その教育効果を持続可能なものへと繋ぐことが求められる。このことについては、これまでの研究成果を踏まえながら、汎用性の高い簡易なガイダンスプログラムへと更なる改善に取り組める段階にまで到達できている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果を踏まえつつ、学級経営において意図的・計画的に、いじめの未然予防に繋がる「プロアクティブ」なガイダンスプログラムとして位置づけ、その汎用性をより一層高めるために改善プログラムを作成する。また本プログラムの簡易化に取り組み、指導者が活用し易いように工夫する。生徒理解を図りながら学級経営を支援する効果的なガイダンスプログラムとして、その質の向上に努める。改善プログラム(簡易版)を用いて、改めてA県内の公立小学校の高学年を対象に追試を行い、その有効性について各種データをもとに分析・検討する。 またガイダンスプログラムの改善にあたり、2019年度の視点を見直し、①自己理解・他者理解を深める、②共感性を高める(ロールプレイの活用)、③違いを受け入れ寛容である、ことを追求する視点に立ち、その内容を再構築する。プログラムの展開において、指導者と児童生徒とのかかわりにおける留意点を明確にしてマニュアル化を図る。 研究最終年度を迎え、研究成果を踏まえ再度、「いじめの未然予防を図るための学級活動の具体的な提案」を達成できたのか、開発した「いじめ未然予防プログラム」について考察する。児童生徒を対象に、本プログラムにどのような意味をもたせることができたのか、「可能性」と「限界」について整理することで、指導者が活用するうえでの汎用性を高める。総合考察にあたり、研究分担者である蜂谷昌之氏(広島大学大学院教育学研究科)から、授業実践への参画を通した気づきに基づき、造形制作活動に見る児童生徒へのかかわりについて助言を請う。そして4年間の研究成果を、報告書にまとめる。 更に本研究成果を整理し、日本学術振興会「ひらめき☆ときめきサイエンス」に公募し、協働的描画表現活動やロールプレイを組み入れた自己理解・他者理解を深め、それを参加者が実感できる取組を展開し、社会還元に努める。
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