研究課題/領域番号 |
17K04869
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
鈴木 正行 香川大学, 教育学部, 教授 (90758856)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 多文化共生 / 職業倫理 / 外国人子女 / キャリア教育 / カリキュラム開発 / 報徳思想 / 通俗道徳的自己規律 / 社会的構想力 |
研究実績の概要 |
グローバル化のもと,定住外国人が急増し,多文化・多民族化が進行する中で,学校・行政・国際交流協会等の諸機関は,それぞれに多文化共生に向けた取り組みを行っている。しかし,どの機関も企業との間に直接的な連携はあまりなく,外国人子女の中・高校卒業後の動向や企業が求める人材の資質・能力等を把握できておらず,学校でのキャリア教育も現実の社会状況と遊離したものとなっている。そこで,本研究では,日本で暮らす外国人子女及び日本人子女に求められる職業倫理を育成するためのカリキュラム開発をめざすこととした。 平成29年度は,①ハローワーク浜松,②浜松商工会議所,③地域の企業経営者が参集する浜松市倫理法人会,④掛川市にある大日本報徳社,などを訪問した,そこでは,静岡県浜松市在住の外国人労働者の実態と職業倫理の在り方,外国人留学生の日本企業への就職状況等に関する聞き取り調査及び資料収集を行った。これらの調査により,企業が求める人材の資質・能力に関する概要について情報を得るとともに,日本の民衆意識の根底にある通俗道徳的自己規律が,現在の中小企業経営者にも受け入れられ,根付いていることなどが明らかとなった。 また,平成28年12月の中央審議会答申や平成29年3月告示「中学校学習指導要領」「小学校学習指導要領」等で示された,社会科で育成すべき資質・能力である選択・判断する力や構想する力が,多文化共生社会の形成に必要な概念であることから,香川県中学校社会科研究会の協力を得て,外国人子女の教育に関する社会科教員へのアンケート調査等を実施した。さらに,約50年間にわたる香川県中学校社会科研究会の動向をもとに,構想力育成の系譜について研究し,その成果を論文「社会科教育における構想力の系譜に関する一考察―香川県中学校社会科研究会の動向を通して―」(日本教育実践方法学会『教育実践方法学研究』第3巻)にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究を推進するために,次に示す(1)から(4)の方策を計画し,漸次実施した。(1)授業開発のための基礎研究として,外国人労働者を雇用する企業を対象に,求める人材の資質・能力・職業倫理,外国人と日本人の扱いの違いの有無,学校に求める教育などに関する事柄をアンケートや聞き取りによって調査する。(2)外国籍の若者による多文化交流グループ「カラーズ」のメンバーや,ロールモデルとなる外国籍の大学生・社会人から聞き取り調査を行う。(3)静岡県西部地域における報徳思想と社会進化論の展開に着目し,日本人の職業倫理の形成について,近代成立期から現代に至る歴史的過程を調査する。(4) キャリア教育・職業倫理教育の視点から,社会科,総合的な学習の時間,道徳,特別活動を融合した総合的カリキュラム開発と中学校での授業実践・分析を行う。 これまでに,ハローワークや商工会議所,国際交流協会等で調査を行い,外国人労働者及びその子女に求める職業倫理の一般的傾向について概ね把握した。ただし,外国人労働者を雇用する企業や浜松市倫理法人会に参加している企業経営者について,コンタクトをとっているところである。 また,外国人子女教育の現状について,浜松市及び香川県の中学校社会科教員を対象にアンケート調査を行い,その成果の一部を論文「外国人子女教育をめぐる中学校教師の意識と高校入試制度―静岡県浜松市における調査から―」(『香川大学教育学部研究報告第Ⅰ部』第148号)にまとめた。しかし,外国人子女と日本人子女の両者を含む職業倫理の育成については,研究を深めるまでに至っていない。 このほか職業倫理観の歴史的形成過程について,報徳思想や社会進化論との結合の観点から実証的な調査を進めており,企業経営者や倫理法人会の思想と活動への影響など,現在の経済思想との接点を見出しつつある。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方策として,次の①から⑥にあるような事項に取り組む。①浜松市倫理法人会に参加する企業経営者や,外国人労働者を雇用する企業を対象に,アンケート調査や聞き取り調査を行い,企業経営を支える職業倫理意識や,労働者に求める職業倫理についての一般的傾向及び個別的特徴を捉える。②労働者に求められる資質・能力・職業倫理について,企業と学校・行政機関等との間にある共通点と相違点を明らかにする。③ロールモデルとなりうる外国人の若者に,身に付けておきたい資質・能力や職業倫理等に関する聞き取り調査を行う。④浜松市立高等学校インターナショナルクラスに在籍していた学生の進路に関する追跡調査を行う。⑤日本の近代化を進める中で,社会進化論が村落指導者や企業経営者,さらには一般民衆に与えた影響を歴史学的に明らかにする。⑥調査に基づいて,キャリア教育や多文化共生の観点から,日本人の職業倫理の成り立ち,企業で求められる資質・能力,企業からの学校教育への期待,職業倫理,キャリア形成等に関するカリキュラムを開発する。⑥開発したカリキュラムに基づいて授業実践を行い,カリキュラムの有効性と課題を検証する。 なお,カリキュラムの開発にあたっては,単に企業の求める職業倫理観に追随するのではなく,学習者の自己実現と社会形成に寄与することに留意する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ハローワークや商工会議所,国際交流協会などの諸機関での聞き取り調査の際に,当初予定した謝金の支払いがなかったこと,各企業でのアンケート調査が未実施であることなどにより,人件費・謝礼の費目の支出がなかったことが影響した。ただし,平成30年度以降,各企業や個人などにおけるアンケートの実施や聞き取り調査などを行う際に,人件費・謝礼の支出が見込まれる。このほかに,アンケートの際に必要な郵送費,データ処理のためのコンピュータ等の機器の整備費,経営学関係の書籍の購入費,研究成果を公表する学会活動費なども必要となる。
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