研究課題/領域番号 |
17K04920
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
藤野 博 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (00248270)
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研究分担者 |
松井 智子 東京学芸大学, 国際教育センター, 教授 (20296792)
黒田 美保 広島修道大学, 健康科学部, 教授 (10536212)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 発達障害 / 自閉スペクトラム症 / 心の理論 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、小学1年生から6年生までの定型発達(TD)の児童44名と自閉スペクトラム症(ASD)の児童33名を対象として、(1)読書の経験や好みと心の理論の発達の関係、(2)物語り文の読解力と心の理論の関係、(3)依頼表現における丁寧さと心の理論の関係、(4)セリフのないアニメーションの内容を語る課題における心的状態の言語表現、について検討した。 その結果、以下の知見が得られた。(1)読んだことのある本の数と心の理論課題の通過数はTD群の方がASD群より有意に多かった。そして、ASD群において、心の理論課題成績と読んだことはないがタイトルを知っている本の数との間に有意な正の相関がみられた。このことから、ASD児は定型発達児に比べると読書経験が乏しく心の理論の発達も遅れていることと、本への興味の芽生えと心の理論の発達には関係があることが示唆された。(2)物語文の読解力において、ASD群とTD群の間に有意差はみられなかった。一方、ASD群においてのみ、心の理論課題の成績は読解力に有意な影響を与えており、特にスマーティー課題の成績が寄与していた。このことより、登場人物の心の状態の変化を理解できるかどうかが物語の読解に重要であることが示唆された。(3)他者に依頼を行う場面において、TD群は相手や状況によって丁寧さを変えているが、ASD群は一貫して丁寧な表現をする傾向がみられた。またASD児においては、目上の人への丁寧さと心の理論の成績の間に有意な正の相関がみられ、対人場面での丁寧表現は心の理論の獲得と関係することが示唆された。(4)セリフのないアニメーションの内容を語る課題において、心的状態の表現の生起数はASD群とTD群の間に有無差はなかった。ASD群の平均語彙年齢は10歳レベルであり、このレベルの言語力を有していると心的状態の言語表現はTD群と同様にできると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、小学1年生から6年生までの、定型発達(TD)の児童44名、自閉スペクトラム症(ASD)の児童33名を対象として、アニメーション版心の理論課題、潜在的誤信念課題、読解力テスト、著書認知テスト、読書アンケート、ポライトネス課題、フィクショナル・ナラティブ課題、CCC-2日本語版、PVT-R、レイヴン色彩マトリックス検査、ADOS-2を実施した。 当初の計画では、TD児とASD児それぞれ20名を目標としたが、それを大幅に上回る参加者が得られ、データを収集することができた。その点では、当初の計画以上の進展がみられたと評価できる。実施した課題については、交付申請書の提出以降に、発達語用論を専門とする研究分担者とともに検討し直し、心の理論に密接に関わると考えられる語用論の側面を評価できる課題として、依頼表現における丁寧さを評価する課題とセリフのないアニメーションの内容を言語表現する課題を追加した。また、読書の経験や好みを詳細に評価するために著書認知テストを作成し追加した。一方、オリジナルに作成する予定であった日常生活における心の読み取りに関する質問紙は、平成29年度は準備が間に合わず実施できなかった。また、アイトラッカーを用いた潜在的誤信念課題についてはデータの収集は行ったが分析まではできなかった。 以上より、総合的に「おおむね順調に進展している」と評価した。なお、研究実施にあたっては本学の研究倫理委員会の承認を得た。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、当初の計画通り、平成29年度に参加し、平成30年度も引き続いて参加する児童に対して、アニメーション版心の理論課題とアイトラッカーを用いた潜在的誤信念課題を実施する。また、日常生活における心の理論質問紙の検討も行い実施する。データの収集とともに、平成29年度に収集した潜在的誤信念課題のデータの分析も行う。また、平成29年度の成果の発表を国際児童青年精神医学会(IACAPAP2018)で行うとともに、平成30年度の成果の発表を日本発達心理学会で行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 年度当初の見積もりよりも安価に購入できた物品があったため、21,559円ほどの残金が生じた。当該年度の研究に必要な物品は入手できていたので、無駄な出費を避けるために残金は次年度に繰り越すこととした。 (計画) 繰越額の21,559円は平成30年度の予算と合わせて物品購入費などにあて使用する予定である。
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