本年度は大学生の自閉スペクトラム傾向(以下AS傾向)と日常生活ストレス経験の関連について検討した。主な結果としてAS傾向が高い大学生はそうでない大学生と比較して、日常生活ストレス経験とりわけ自己の人格や生き方に関するストレスと学業に関するストレス経験を多く認識していること、AS傾向が高く且つ日常生活ストレス経験が多い大学生は精神健康状態とりわけ不安や気分の落ち込み、希死念慮を高く認識していることが示唆された。 また、AS傾向とストレスへの意識的・無意識的反応ならびに精神的健康の関連を検討し論文にまとめた。AQ得点により被験者を高・中・低群に分けてRSQの一次的制御、二次的制御、意識的退却、無意識的関与、無意識的退却の得点と下位因子の得点を比較した結果、意図的なストレス対処である一次的制御と二次的制御の得点はAQ低群がAQ中群と高群より高く、反対に、ストレスへのな無意識な反応であり一般的に適応的なストレス対処ではないとされる無意識的関与と無意識的退却の得点は、AQ中群と高群がAQ低群よりも高かった。下位因子の主な結果としては、二次的制御コーピングの気晴らしは、AQ高群がAQ低群と中群より有意に得点が低かった。AS傾向の程度とストレスへの意識的・無意識的反応が精神的健康に与える影響を検討した結果、AS傾向の程度に関わらず無意識的なストレスへの関与と退却は精神的健康に負の影響を与えること、特にストレスについての無意識的な反芻や感情喚起、生理的喚起、感情麻痺といった反応は、精神的健康に負の影響をもたらすことが示唆された。また、AS傾向が高い群においては、意識的な気晴らしが精神的健康に良い影響をもたらすことが示唆された。 今後はAS傾向と日常生活ストレス経験、ストレス対処・反応、そして精神的健康の包括的な関連の検討を進め、ASD学生の精神的不調の予防に応用することが望まれる。
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