「許し」は攻撃性や罪悪感を制御する機能であり、人間社会で重要な機能を果たしている。 その一方で、自閉スペクトラム症(ASD)では他者を許すのがむずしいことが知られている。このことは、ASDが定型発達(TD)が多数を占める社会で生きることを難しくしている要因の一つといる。現在、「許し」を行っている際の脳活動を計測し、その脳内基盤について明らかにした研究はほとんど知られていない。 そこで、道徳的に善悪が設定された3コマ漫画を課題として用いた。参加者は課題を見て、その漫画内の主人公の行動を許せるか許せないかの判断を行い、その程度をボタン押しで7件法に対して答えてもらい、その際の脳内活動を脳機能計測機器(MEGからfMRIへと変更)によって計測した。なお、ASDが集められなかったため、定型発達成人男女を対象とした。また、脳機能計測実験前の別日に、参加者には心理検査、性格検査や質問紙などを行った。 心理検査、性格検査や質問紙の結果については、性差は見られなかった。モラル逸脱に対する「許し」の程度についても、性差は見られなかった。現在、脳機能画像計測の結果は解析中であり、引き続き、他の検査との相関なども分析を行う。 心理検査などの結果、行動面における「許し」には性差が存在しなかったことから、「許し」の脳内基盤には性差が存在しない可能性が現時点では示唆された。また、課題遂行前の右DLPFCにおけるGABA濃度と最も許容度の高かった回数が負の相関を見せたが先行研究から、記憶に対する負荷量に関連する可能性が示唆されている。
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