本研究は,盲ろう者による触手話の特徴とその生成・変容過程を言語学的に解明するものである。手話話者が(アッシャー症候群等により)後天的に視覚に障害を受け,使用するようになる触手話は,手話言語の一変種とみなされるが,その言語学的な構成については未解明である。本研究では,まず①触手話のコーパスの構築とその分析的な枠組みの検討を行い,これに基づき,②通常の日本手話から接近手話を経て触手話に至るまでの言語資料を収集し,その変容過程を言語学的に分析・解明する。特に視覚的,空間的な文法装置に着目する。①に関しては,汎用映像分析ソフトELANを用いて,分析のためのプラットフォームの構築を試みた。また②に関しては,5名の盲ろう者の触手話による自然な対話資料を収集した。現在詳細に分析中であるが,これらの対象者は,失明時期やそれまでの手話話者としての経験は様々である。先行研究によると,触手話を通常の手話言語の一変種とみなす立場と新たな言語の創出とみなす立場があった。本研究の分析からは,詳細な解明は途上であるが,通常の手話言語と異なる文法的な特徴が見いだされた。また触手話の使用者によりバリエーションがあるが,視覚的な文法が使用できないところを日本語の文法で代替する話者も見られた。これらの発話資料に関して今後さらに詳細に分析する予定であるが,触手話の通訳者の発話資料も併せて分析することの必要性も明らかになった。このことについては本年度新たに取り組みたい。
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