研究課題/領域番号 |
17K04935
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研究機関 | 奈良教育大学 |
研究代表者 |
玉村 公二彦 奈良教育大学, 教育学研究科, 教授 (00207234)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 知的障害 / 教育課程編成 / インクルーシブ教育 / 実践史 / 特別支援学校・学級 / 人権 / 支援・指導・配慮 / 障害者権利条約 |
研究実績の概要 |
本研究は、障害者権利条約教育条項に関する研究と特別支援教育実践の歴史的研究を継承し、インクルーシブ教育時代における知的障害教育のあり方を検討することを目的として、次の課題とした。すなわち、(1)「知的障害」概念と教育的アプローチの比較研究、(2)知的障害教育の実践史的検討(特別支援学校を中心とした教育課程と授業の資料のアーカイブ化を含む)、(3)知的障害教育実践の蓄積を踏まえた、学習指導要領の改訂の原理の考察と今後の教育課程編成のあり方の検討である。 初年度の2017年度は、次の作業を行った。 1.国際的な知的障害教育のプログラム開発とマネジメントの把握の前提として、アメリカにおける「知的障害」概念の形成について、21世紀前半にさかのぼり検討・考察した。 2.知的障害教育の教育課程編成の実践的蓄積の検討として、特別支援学校などに残された授業等のビデオ映像等のデジタル化を行い(桃山養護学校、鳴滝養護学校、奈良東養護学校等)、知的障害やその他の子どもへの教育実践の具体を検討する前提をつくった。 3.知的障害教育における教育課程編成と学習指導要領改訂の実践的検討として、事業所での知的障害特別支援学校卒業後のキャリア実習と結んで、大学での軽度知的障害の青年の職業・学習体験の場を提供し、「支援」「指導」「配慮」モデルの確立の実践的検討を継続して行ってきた。 作業結果は、大学の紀要に発表するとともに、実践の映像関係は、リストを作成し、当該学校への概要の報告を行った。また、事業所との連携で、デジタル化作業に関わった卒業生のキャリア発達に関する事例的検討を行い、事業所に還元した。 あわせて、重度知的障害に関連する人権上の問題や入所施設などでの課題について、相模原の事件などを通して考察を行い、学校教育のみならず福祉への接続問題や人権上の配慮についても検討を今後も行っていくこととした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、以下の点で作業を進めることができた。 アメリカの「知的障害」概念の成立について、20世紀前半にさかのぼって検討し、ドル等の「精神薄弱6規準」」へ至る過程を明らかにした。この作業によって、これまでのアメリカにおける「知的障害」概念の形成史の検討家庭の空白を埋めることができ、へバー定義に至る前提を示すことができた。 知的障害教育実践の実践史的検討として、桃山養護学校等の実践や発達診断関係のフィルムやオープンリール等のビデオのデジタル化を行い(桃山養護学校300本等)、あわせて各学校で製作された学校紀要等のデジタル化を進めた。これらの作業によって、京都などの地域における知的障害のある子どもの発達と教育実践の発展を跡づける前提とすることができた。 学習指導要領関係の改訂作業をフォローし、高等部学習指導要領をのぞいて、その改訂の内容を掌握するとともに、今後の知的障害教育の変容について、障害者権利条約など国際的な動向の中での知的障害教育のあり方を支援・指導・配慮の実践的関係やキャリア発達について検討することができた。 あわせて、重度知的障害の子どもや成人の施設入所に関して、卒業後の進路に関連する人権上の課題について、相模原事件を通して検討を行い、雑誌に報告を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度も、「知的障害」概念とその教育的アプローチに関する比較教育学的検討、知的障害教育の実践史的検討、教育課程と教育方法に関する原理的考察をすすめるが、あわせて、知的障害教育の前提に関する人権上の課題の検討も課題として加えてゆきたい。具体的には、特に次の点を検討の課題としたい。 1.戦後日本の知的障害教育の再発足の際に重要視された、第二次世界大戦後初期のアメリカにおける「精神遅滞」概念の検討である。第二次世界大戦後のアメリカの「精神遅滞」論は、知的障害の類型論とそれに基づく教育的アプローチのもととなったものであり、戦後、知的障害の教育の基礎的概念を検討することにつながるものであるからである。 2.引き続き、関西(特に京都)を中心として、実践資料のデジタル化を行いながら、戦後の京都を中心とした知的障害学級(特別学級、特殊学級)での教育課程編成を跡づけていく。さらに、養護学校教育義務制実施前後の教育実践史的検討をすすめていく。また、それらの源流となった、戦前における「特別学級」について、奈良女子高等師範が公附属小学校「特別学級」の実践を行った斎藤千栄治と京都での田村一二を中心に、史料のまとめを行っていく。 3.引き続き、高等部学習指導要領の検討を行い、特にキャリア教育を中心に実践的にも取り組み、必要な原理的検討を行う。 4.今日的な人権上の課題となっている優生保護法による不妊手術の問題や重度知的障害に関連する人権上の問題などについて、学校教育のみならず社会的な知的障害に関する意識、福祉・医療のへの接続問題や人権保障に関する今後の課題についても検討を行いたい。
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