研究課題/領域番号 |
17K04949
|
研究機関 | 十文字学園女子大学 |
研究代表者 |
伊藤 恵子 十文字学園女子大学, 人間生活学部, 教授 (80326991)
|
研究分担者 |
安田 哲也 東京電機大学, 理工学部, 研究員 (90727413)
小林 春美 東京電機大学, 理工学部, 教授 (60333530)
高田 栄子 埼玉医科大学, 医学部, 講師 (20236227)
池田 まさみ 十文字学園女子大学, 人間生活学部, 教授 (00334566)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 自閉スペクトラム症 / 発話意図 / 表情理解 / 語用論的能力 / ナチュラルサポーター / 抽象語理解能力 / 注視点計測 |
研究実績の概要 |
本研究では,自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)児者の語用論的能力に対する多角的実証データに基づいたナチュラルサポーター(専門家ではない,障害者と日常をともに過ごす人々)による日常的支援を行うために,かれらの語用論的能力の特徴の解明を行うことを目的としている。具体的には,日常場面に近い映像実験等によって,ASD児者の語用論的能力の特徴を実証的に検討する予定である。 2017年度は,ASD児者の発話意図推測の特徴を調べるために,日常場面に近い映像を通して,発話意図推測実験を実施した。その結果,話者の発話意図を推測するうえで,ASD児者と定型発達(Typically Development:TD)児者間に差は認められなかった。この実験結果との関連要因を検討するために,表情理解実験および抽象語理解検査等を実施した。同時に実験中,対象児者の視線移動や注視がそれぞれの発話意図推測プロセスに関わっている可能性があるため,注視点計測装置を用い,発話時の注視時間及び頻度を調べた。 本年度は,上述の発話意図推測実験結果と関連要因の分析を実施した。その結果,表情理解実験および抽象語理解検査結果との関連は認められなかった。他方,注視点計測装置を用いた分析の結果,ASD児者とTD児者においては相違が認められた。ASD児者はTD児者に比べて,話者の体に注視する頻度と時間が多く,話者以外を注視する頻度と時間が有意に少なかった。また,話者の顔に関しては,ASD児者はTD児者に比べて,鼻を注視することが有意に多かった。これらの研究結果のフィードバックとそれに基づく個別支援をASD児者に実施した。また大学公開講座・市の講演会等で,本研究成果をASD児者のナチュラルサポーター(学校関係者,療育担当者等のASD児者を取り巻く多くの方たち)に報告した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定をしていた発話意図推測実験および表情理解実験等は,順調に進み,計画通りデータを収集することができた。論文化が少々遅れ気味であるが,ほぼ順調に進展している。よって,おおむね順調に進展しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
2019年度は,これまでの研究結果を論文化する一方,追加実験を実施する。2017年度の発話意図推測実験では,ASD児者とTD児者に差は認められず,両群とも表情やプロソディといった非言語情報をもとに話者の発話意図を推測していることがうかがわれた。しかし,この実験では話者の発話意図を場面状況から判断しているのか,表情やプロソディから判断しているのかが明確には推測できなかった。よって,追加実験を実施し,ASD児者とTD児者が,話者の発話意図を場面状況から判断しているのか,表情やプロソディから判断しているのかを,より明白にする。 同時に注視点計測装置によって,発話時の興味領域を調べた結果の分析を実施し,実験中,対象児者の視線移動や注視がそれぞれの発話意図推測プロセスにどのように関わっているかを検討する。 これらの分析により得られた実証データ及び知見から,語用論的能力に対する日常支援において注目すべき手がかりを明らかにする。それらを基に,十数年間実施しているASD児者と養育者たちとのグループセッションを通じ,ナチュラルサポーターとしての支援の可能性を検討していく。また,2018年度に引き続き,ASD児者と養育者に対してだけではなく,養護教諭をはじめとする学校関係者,療育担当者等,ASD児者を取り巻く多くの方たちに,研究の成果を報告するとともに,具体的な支援のあり方を検討していく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
追加実験のために人件費を残しておいたこと、研究成果公表のための冊子作成等を次年度に見送ったため、次年度使用額が生じた。 使用計画としては、これまでに得られた知見を精緻化するために追加実験を実施し、条件や参加者を増やすなどの対策を講じることに使用する。同時にそれによって得た研究成果を公表するために使用する予定である。
|