研究課題/領域番号 |
17K04959
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研究機関 | 関西福祉科学大学 |
研究代表者 |
加藤 美朗 関西福祉科学大学, 教育学部, 准教授 (40615829)
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研究分担者 |
蓑崎 浩史 駿河台大学, 心理カウンセリングセンター, 助教 (20711170)
嶋崎 まゆみ 兵庫教育大学, 学校教育研究科, 准教授 (70319995)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 遺伝性疾患 / 知的障害 / 特別支援学校 / 在籍状況 / 障害特性 |
研究実績の概要 |
今年度は、知的障害の病因となる遺伝性疾患(何らかの遺伝子の変異を原因とする疾患)の心理社会的支援に関する先行研究の文献検討および主要な症候群の研究や支援を行っている研究者との自主シンポジウムを関連学会で企画した。並行して、全国の特別支援学校(視覚障害および聴覚障害単独校を除く)を対象に、児童生徒の遺伝性疾患(主たる障害が知的障害とされるもの)の在籍状況に関する調査を行った。 近年の遺伝医学の進歩に伴い、知的障害の病因となる遺伝性疾患(何らかの遺伝子の変異を原因とする疾患)は1,600以上あり、知的障害の病因に占める遺伝性疾患の割合は約3~5割以上とされる(水野, 20016; Simonら,2014)。欧米ではそれら疾患の障害特性を明らかにし、その結果に基づく適切な生物心理社会的支援構築に向けた研究が1990年代より積み重ねられている(AAIDD, 2010)。 わが国でも、遺伝性疾患の診断を進める「IRUD(Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases:未診断疾患イニシアチブ)」研究が国立研究開発法人日本医療研究開発機構によって2015年度より開始されるなど、遺伝性疾患の診断を受ける児童生徒数の増加が今後予測される。しかしながら、このような症候群の今後の支援に向けて、わが国の特別支援教育に活かすことのできる、たとえば障害特性に関する情報が限られていること、および、わが国における遺伝性疾患のある児童生徒の在籍状況や、指導や支援を担当する教員のニーズが明らかではないことが課題である(加藤・嶋﨑,2015)。 そこで本研究では、わが国の特別支援教育における、遺伝性疾患のある児童生徒の障害特性に基づく教育的支援を目指し、その在籍状況や教員の支援ニーズを質問紙調査や半構造化面接を用いて明らかにすることを目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、知的障害の病因となる遺伝性疾患の心理社会的支援に関する先行研究の文献検討を行い、研究代表者と共同研究者が自主シンポジウムを日本特殊教育学会第55回大会で企画し、企画趣旨説明および話題提供をそれぞれ担当した。また、全国の特別支援学校(視覚障害および聴覚障害単独校を除く)を対象に、児童生徒の遺伝性疾患(主たる障害が知的障害とされるもの)の在籍状況調査(研究1)を実施した。特別支援学校870校を対象に郵送で調査(配布1か月後に再依頼状を郵送)を行った。年度当初に筆頭著者の所属する大学で研究倫理審査を受けていた。結果、有効回答数は412校(回答率47.36%)で総児童生徒数53,688名、その内、知的障害単独校は181校、総児童生徒数28,445名であった。知的障害単独校において、疾患名の明らかな遺伝性疾患(疾患名が症例発表者名あるいは症状に基づく診断名)は、ダウン症候群(2,876名)を除けば、上記19症候群を含む124疾患965名であった。これら以外には、染色体の数的異常が染色遺体番号で示されるもの(たとえば22トリソミー)が47種71名、染色体構造異常が色遺体番号で示されるもの(たとえば1番染色体長腕欠失)が86種105名、原因遺伝子名で示されるもの(たとえばFOXP1)が7種8名であった。さらに、単に遺伝子疾患や染色体障害と記されたものが45名であった。知的障害単独校における遺伝性疾患の総計は4,070名で、その総児童生徒数の14.3%を占める結果であった。 本研究の結果、知的障害の原因となる可能性の高い遺伝性疾患が知的障害校を中心にさまざまな障害種別の特別支援学校に在籍し、その障害名も多岐にわたることが明らかとなった。平成30年度は、これらのデータに基づき、直接支援を行う教員を対象に、より適切な教育的配慮の構築あり方についてニーズ調査を行う。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、まず平成29年度に実施した文献検討を行った対象となる症候群のうちいくつかの症候群の事例と解説を載せた図書の刊行を、研究代表者が共編著者として行う予定である。なお、本図書には共同研究者の内1名が執筆予定である。 次に、平成29年に実施した特別支援学校における児童生徒の遺伝性疾患の在籍状況調査(研究1)の結果について、日本特殊教育学会第56回大会でポスター発表を行うべく申請中である。そのうえでさらにデータの分析をさらに進め、関連学会に論文を投稿する予定である。 研究2の「遺伝性疾患のある児童生徒の担当教員の支援ニーズ」については、研究1の結果に基づき、教員を対象とした質問紙および半構造化面接の内容を決定し、質問紙等を作成する予定である。質問紙は、研究1の結果、調査対象とする症候群を決定し、前年度最終学年ではなかったそれら症候群の、今年度の担当教員向けに郵送調査を実施する。データ収集の対象となる症候群については、研究1の結果を参考に検討中である。研究2の目的は、それら結果データを検討することをとおして、それぞれの症候群について、教員が指導上困難と感じている点、および教員が求める情報や資源を明らかにすることにある。また、そのことをとおして、特別支援教育における、遺伝性疾患のある児童生徒の障害特性に基づく支援に関する基礎的情報の構築を目指す。なお、質問紙の送付時には、研究1の結果を簡潔にまとめた文書を同封し、特別支援学校における遺伝性疾患のある児童生徒の基本的な在籍情報等について情報提供していくものとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度繰越金が発生した主な理由として、本年度予定していた調査の対象特別支援学校数が、検討の結果約1,000件から870件に変更になり郵送費が減額されたこと、および、データ入力のアルバイトが十分に集まらなかったことが挙げられる。このため、繰り越し分は次年度当初、引き続き今年度の調査データを入力するアルバイトへの謝金に充てる。また、次年度は、今年度の調査結果から得られた情報をもとに、支援ニーズが高いと考えられる遺伝性疾患の心理社会的支援に関する先行研究の文献検討を行う。また、今年度の調査結果を冊子にまとめ回答校への郵送によるフィードバックを行う。次に、今年度の調査結果に基づき、上記遺伝性疾患のある児童生徒を担当する教員を対象とした二次調査を郵送によって行う予定である。さらに訪問調査も検討している。また、関係学会への参加および情報収集を行うとともに、日本特殊教育学会において、今年度の成果発表をポスター発表で行い、最終的には関連学会誌への投稿論文を作成する予定である。
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