研究実績の概要 |
本年度は,関連する三報の論文を発表することが出来た. まず,リチウム内包フラーレンの化学修飾として,ジフェニルメタノおよびフルオレノ基をそれぞれ導入したリチウムイオン内包フラーレンについて,各々発表した(J. Org. Chem. 2017, 82, 5868およびJ. Org. Chem. 2017, 82, 11631).いずれにおいても新規化合物の合成であり,それらの興味深い特性を構造化学的な見地と共にまとめた.これら新規のリチウムイオン内包フラーレン修飾分子は,今後その還元による中性体の取得と,有機半導体膜としてのフラーレン修飾体固体中へのドーピング検討のために用いる予定である. 次に,リチウム内包フラーレンが有機半導体素子中でドーパントとして働くことを示す検討として,有機無機ペロブスカイト太陽電池のホール輸送層に加えることを試みた.spiro-MeOTADと呼ばれるホール輸送材料と共に用いたところ,リチウムイオン内包フラーレンからへの電子移動によりホールドープが起こることがわかった.通常このホールドープはリチウム塩を共存させた上で酸素により起こすのが一般的であるが,そのようなプロセスを経ずに素子として働くことがわかった.またホールドープによりリチウムイオン内包フラーレン自体は還元され中性体となり,これが酸素や水等によるペロブスカイト太陽電池素子の劣化を妨げることがわかった.この結果は,直接的にはリチウム内包フラーレンの電子ドナーとしての働きとは違うが,有機半導体素子中でドーパントとして働きうること,また中性リチウム内包フラーレンが酸素に対するドナーとして働くことを示したものである.本成果はAngew. Chem. Int. Ed., 2018, 6, 5746.にて発表した. その他,化学還元による中性体合成やフラーレン固体中へのドーピング検討を開始した.
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