研究課題/領域番号 |
17K04971
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
藤井 慎太郎 東京工業大学, 理学院, 特任准教授 (70422558)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 走査型トンネル顕微鏡 / ブレイクジャンクション / ナノグラフェン |
研究実績の概要 |
グラフェンとはベンゼンが無限に縮合してできたsp2炭素の2次元膜である。グラフェンは高い電荷移動度を示すため、電子デバイス材料として注目されている。一方、グラフェンをナノサイズ化した、有限の幅を持つリボン状のグラフェンはグラフェンナノリボンと呼ばれている。グラフェンナノリボンでは、エッジ効果や電子閉じ込め効果によりその電子物性が大きく変調される。2018年度はアセン前駆体の表面特異的な重合反応を用いたボトムアップ手法によりジグザグエッジを両端に持つグラフェンナノリボンを合成した。吸着させる前駆体分子の表面密度を適切に選択することで、分子長が数ナノメートル程度の短いグラフェンナノリボンの合成に成功した。さらに、走査型トンネル顕微鏡法(STM)とブレイクジャンクション法を駆使することで、グラフェンナノリボンの輸送特性と局在スピン状態を明らかにした。グラフェンナノリボンを作製した金(111)表面上において、STM金探針と金(111)表面の間の点接触と破断を繰り返すことで、微小な金電極を作製した。針と表面の間に作製された金電極の間にグラフェンナノリボンを捕捉することで分子接合を形成させた。伝導度計測結果の統計的な解析から、数ナノメートル程度の分子長を示すグラフェンナノリボンは高い電気伝導度を示した(>0.1 G0)。ここで、G0は量子化コンダクタンス(G0= 2e2/h)である。これまでの研究から、グラフェンナノリボンのジグザグエッジには局在スピン状態が発生することが知られている。分子長が数ナノメートル程度のグラフェンナノリボンでは、両端のジグザグエッジに存在する局在スピン状態が近接しているため、相互作用を引き起こし電気伝導度を低下させることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ナノカーボンの表面特異的な重合反応を用いたボトムアップ手法によりエッジ欠陥を持つグラフェンナノリボンを合成し、走査型トンネル顕微鏡法とブレイクジャンクション法を駆使することグラフェンナノリボンの電気伝導度を決定した。研究計画ではトップダウン手法によるグラフェン構造の作製を念頭においていたが、ボトムアップ手法を用いることで規定されたエッジ構造を持ち、さまざまな分子長を有するグラフェンナノリボンを作成できることが分かった。研究課題はおおむね順調に進展しており、今後は 前駆体を選択することで、様々なエッジ構造と局在スピン状態を持つのグラフェンナノリボンを作製し、それらの輸送特性とスピン状態を明らかにする。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、前駆体を選択することで、様々なエッジ構造と局在スピン状態を持つのグラフェンナノリボンを作製し、それらの輸送特性を明らかにする。さらに、第一原理計算を駆使した電子状態シミュレーションを行うことで、グラフェンナノリボンの局在スピン状態の理論的サポートを得る。そして、局在スピンの発生や局在スピン間の相互作用の起源について明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
グラフェンナノリボンの電子状態シミュレーションの予備計算について、モデリングや計算方法の工夫により、スパコンの使用時間が計画当初よりも短縮できた。このため未使用額が生じた。次年度のスパコン利用料に当てる。
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