研究課題/領域番号 |
17K04974
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
坪井 泰之 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (00283698)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 光ピンセット / 光圧 / 蛍光顕微鏡 / 微粒子 / ナノ粒子 / プラズモン |
研究実績の概要 |
私たちは、プラズモン光ピンセットの弱点を克服する新しい方法論を開発した。それは、表面にナノ構造を有する固体基板の利用である。ケイ素(Si)単結晶基板とチタン(Ti)結晶基板をドライエッチングで表面処理すると、Si基板の表面にはナノニードル構造を、Ti基板の表面にはナノカラム構造を容易に大面積に形成できる。このナノ構造による屈折率の空間勾配と多重散乱効果により、入射光電場を表面近傍に増強できる。 このようなナノ構造基板を用いて、私たちは高性能光ピンセットを開発した。それぞれをNASSCA光ピンセット、NASTiA光ピンセットと呼ぶ(Nanostructured Semiconductor-Assisted (NASSCA) and Nanostructured Ti-Assisted (NASTiA) Optical Tweezers)。これらの光ピンセットはプラズモン光ピンセットよりも強固・安定な捕捉ができることが明らかとなった。さらに、微粒子の大量捕捉もNASSCA光ピンセットでは実現できた。この二つを比べると、直径500 nm のラテックスビーズ に対し、安定な捕捉に必要な光強度は、NASTiA光ピンセットはNASSCA光ピンセットよりも、約十分の一となった。つまり、NASTiA光ピンセットは優れたナノ物質マニピュレーションのツールである。このような性能の機構は現在、FDTD計算で解析中である。 このような光ピンセットの利点は上記の他にも挙げられる。まず、ナノ構造を担う物質(Si、Ti)の電子の実励起を必要としないために、幅広い波長の光を利用することができる(ブロードバンド)。また、熱の影響を無視できるので、光強度を一気に増大でき、強い光圧を発生させられる。私たちは現在まで、このような新型光ピンセットを用いて、水溶液中の鎖状高分子やDNAの安定な光捕捉に成功しつつある。ナノ物質の大量捕捉は、その結晶作製にも応用できるかもしれない。このように、全く新しい光ピンセットが、光マニピュレーション化学を開拓できる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1)高効率捕捉の実証: 水に分散した蛍光染色ポリスチレンビーズ(d= 500 nm)を捕捉対象とした。この分散液をブラックシリコン基板とカバーガラスで挟み、試料セルとした。倒立顕微鏡に捕捉用のレーザービーム(λ= 808 nm)と蛍光励起用のレーザービームを同軸で導入し、試料溶液に集光した。暗視野蛍光画像並びに蛍光スペクトル測定により、ビーズのミクロな運動を詳細に解析した。捕捉用レーザービームの光強度(I;ブラックシリコン表面上での値)を徐々に高くしていくと、I= 30 kW/c㎡付近でビーズの安定な捕捉が確認された。ブラッ クシリコン基板がない状態や、ブラックシリコン基板を平滑なガラス基板に置き替えて同様の光捕捉を試みたところ、I= 800 kW/c㎡以上でも光捕捉は確認されなかった。これより、ブラックシリコン基板が光捕捉を強力に支援することが明らかとなった。捕捉の力(stiffness)を微粒子のtrackingから評価したところ、プラズモン光ピンセットの10倍の強度を持つことがわかり、本手法が強力な微粒子捕捉法であることが実証された。 (2)新現象の発見: 本手法によりナノ粒子を100ヶ以上大量に捕捉できることがわかった。また、平滑なシリコン基板を対象実験に用いると、極めて対照的に単一微粒子を捕捉出来ることがわかった。また、本手法によりDNAや鎖状高分子も効率よく捕捉出来ることがわかった。そして、チタン基板でもナノ構造を付与すると光捕捉を強力に支援することも明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
(1) ソフトマター分子系の光捕捉 本研究で開発したNASSCA、NASTiA光ピンセットは、未だポリスチレン微粒子に対してのみ、捕捉挙動の詳細が明らかとなっている。 DNAや鎖状高分子、ゲル微粒子、リポソームなど、諸分野で重要な研究対象となっているソフトマター簿粒子系に対し、その捕捉挙動の詳細(特徴、機構など)を明らかにする。 (2) FDTDシミュレーションによる貴行為の定量解析・解明 本研究で発見されたNASSCA、NASTiA光ピンセットの機構やナノ構造最適な設計指針を得るには、電場強度分布のコンピュータシミュレーションが必須である。現在、FDTDシミュレーションに着手している。最終年度は、このシミュレーションを駆使し、NASSCA、NASTiA光ピンセットの全貌を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度は、順調に研究成果を挙げることができたため、当初予定していた実験器具・試薬などの消耗品への出費を削減することができた。2019年度はさらにハードルの高い研究に取り組むため、2018年度の残額を2019年度の消耗品として計上する。
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