媒体中を自由に拡散運動する微粒子を選択的に捕捉できる光ピンセットは、各種顕微分光法と組み合わせれば、単一微粒子を個別選択的に分析できる優れたツールとなる。私たちのグループでは、このような光ピンセットの分析化学応用を研究してきた。特に最近では、量子ドット、巨大分子、リポソーム、分子集合体といったナノ物質を自在に空間操作できる光マニピュレーション法の開発を目的に、私たちは研究を展開している。その中で、固体ナノ構造を利用した新型光ピンセットを開発したので紹介したい。私たちは、シリコンやチタンなど、プラズモン増強効果が期待できない固体結晶でも、その表面にナノ構造を付与すれば、光圧を増強し、光ピンセットの捕捉力をアシストすることを明らかにしてきた。また、このようなナノ構造は、捕捉挙動を劇的に変革できることも明らかにした。 そのような例を以下に示す。試料は水に分散した蛍光性ポリスチレンビーズ(直径500 nm)であり、捕捉用光源には波長808 nm のcwレーザーを用いた。この波長なら、熱攪乱の影響を極力抑えこめる。バルク水中では捕捉出来ないような光強度で、カバーガラス上、平滑シリコン結晶上、ナノ構造シリコン結晶上での捕捉挙動を比較した。ナノ構造ブラックシリコン上では数百ヶ所以上のおびただしい数の粒子が規則正しく二次元にパッキングされて捕捉され、フォトニッククリスタルを形成できた。一方、MW/cm2の光照射では、3次元に照射範囲を超えて大量の微粒子を補足できる。平滑なシリコンでは、きわめて対照的に、単一の微粒子を補足できた。このように、モード切替型の光ピンセットを開発できた。 このような効果は、チタンのような金属でも観測された。このようなノンプラズモニックな固体ナノ構造光ピンセットの性能、特徴、駆動機構の研究を行っている。
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