研究課題/領域番号 |
17K04975
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研究機関 | 豊田工業大学 |
研究代表者 |
市橋 正彦 豊田工業大学, 工学部, 客員教授 (90282722)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | クラスター・クラスター衝突 / 金属クラスター / 液体ヘリウムクラスター / クラスター複合体 / 赤外分光 / 触媒 / 吸着 / 電子構造 |
研究実績の概要 |
複数のクラスターからなる複合体を我々はクラスター複合体と位置付け、その化学研究に取り組んでいる。この特徴は、個々のクラスターの特性をある程度保つ反面、クラスターの接合によって生じる新たな特性が付与される点にある。 18年度はCu-Zr、Rh-Zr、Rh-Alなどのクラスター複合体上でのC1化学やNOの活性化研究を行なった。まずは理論的手法を用いて複合体の構造を求め、複合体形成による反応性変化を抽出した。例えばRh-Alクラスター複合体上でのCO酸化はRhユニット上で進行するが、この反応性は孤立したRhクラスター上での反応性とよく似ており、クラスターの性質が複合体でも比較的保たれることが判明した。 一方、このようなクラスター複合体研究を実験的に進めるには、制御された手法で複合体を形成し、その性質を精密に測定することが必要とされる。我々は17年度までに低エネルギー合流型衝突法をクラスターどうしの衝突に適用し、複合体を生成する手法を独自に開発している。この手法を用いて、原子数選別された金属クラスターイオンをHeクラスターと衝突させて、複合体を生成することに成功している。18年度はこの複合体生成法を反応機構解明へ展開した。一例をあげると、Rhと同族のCoのクラスターを用いて、NOの吸着構造の解明につながる予備実験を行なった。ここではCo3NO+をHeクラスターと衝突させて、複合体(Co3NO+)(Hen)を生成した。HenはCo3NO+の構造に影響を与えることなく、これを極低温に保つことができるため、レーザー分光法を用いてCo3NO+の性質を詳細に調べることができる。我々は光解離分光法を用いてCo3NO+の最低電子励起状態付近の電子構造を明らかにした。この領域の電子構造は反応性と密接に関係しており、Co3+の電子構造と詳細に比較することによって反応性の解明につながっていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究によってクラスターに関する特徴的な性質が明らかになってきている。このようなクラスターを、物質を構成するためのユニットとして今後利用していくためにはクラスターどうしの相互作用を明らかにし、その組み合わせの道標となるようなものが不可欠である。我々はこのような目標への一歩としてクラスター複合体化学の確立を目指しており、特にこの基盤研究ではクラスター複合体上での化学反応の探索・解明を進めているところである。反応としては、我々が将来的に抱えている環境問題、エネルギー問題に関連した二酸化炭素の活性化、水素化を取り上げて進めてきたが、ここで得た知見をもとに反応性に関してより基礎科学的な性質を抽出するために一酸化炭素や一酸化窒素の活性化に関する研究も行なった。これによって、クラスター複合体の化学反応性をより根源的に捉えることができるようになった。 また、クラスター複合体をクラスター触媒の研究手法として用いることによって、反応中間体であるCo3NOをヘリウムクラスターに取り込んで分光実験が可能なことを示した。今後さらに詳細なスペクトルを得ることを目指している。この手法自体は、クラスター研究にとって非常に応用範囲の広い手法であり、様々な種類のクラスター複合体を形成する手法へと発展させられる得る手法である。このように研究のさらなる将来展望を描くことができるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの理論研究によって得られた予言的な成果を実験的に検証し、クラスター複合体化学のという研究分野の土台作りにつなげるために、金属クラスターと金属酸化物クラスターなどからなる複合体を生成し、この反応実験を行なう。これとともに、クラスター複合体の反応性探索、反応機構の解明も理論的に展開していく。また、ヘリウムクラスターを構成要素とした複合体を用いた実験研究では、分光実験のためのレーザー光源および検出手段(質量分析法)の改良を行ない測定可能な波長範囲を広げていくことを考えている。これによって吸着分子の振動スペクトルの測定を可能にし、電子構造と幾何構造の両面から反応性の解明を進めていくことが可能となる。さらに将来的には、クラスター複合体を自在に作り出すことによって、ヘリウムクラスター中に金属-金属酸化物クラスター複合体を取り込み、反応性の解明を目指すこともできるようになるであろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
各物品を購入する際に、納入業者との交渉により値引きをしてもらうことができた。次年度交付額と合わせて、物品費などに充てる予定である。
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