原子集合体(クラスター)から構成される複合体は、分子ごとに適した活性サイトを持ち、分業的にはたらく触媒となる魅力を秘めている。我々はその基盤となる化学反応研究を物理化学的な側面から進めるために、複合体生成法の開拓や化学反応に関連した電子構造の解明などを行なってきた。そして、この電子構造の解明には近赤外領域でのレーザー分光法を用いてきた。今年度は特に、この分光測定での信号強度の増強による精度向上を目指して実験手法の改良を行なった。これにより、化学反応性に関してより的確な示唆を与えることができるようになった。 我々はこれまで真空中で低エネルギー合流型衝突法を用いて、例えば原子数選別された金属クラスターイオンとヘリウムクラスターから構成される複合体を作り、これに対してレーザー照射により分光測定を行なってきた。そして、測定用レーザーの繰り返しに合わせて10 Hzの繰り返しで、すべての測定操作を行なってきた。今年度は複合体生成系を倍の繰り返しの20 Hzにすることで、レーザー光の有無による差分をより明確に抽出できるようにした。複合体生成の繰り返しを20 Hzに上げた状態で実験装置を安定に動作させるためには、イオン制御系の安定化が重要である。そのため、イオン制御系の改良やクラスターどうしの空間的および時間的な重なり条件を調整することによって測定対象となる複合体の強度を数倍程度まで向上させることができた。さらに、測定用レーザーの出力の再調整と合わせて、最終的な信号強度の向上につなげた。その結果、測定値の統計誤差を減少させ、スペクトルの細かな変化をより信頼性高く測定できるようになった。 計算の活用と合わせて、今後は上記の手法を応用して、金属クラスターどうしから構成される複合体の化学反応の実験的解明や、将来的なクラスター複合体触媒への展開につながる道筋が見えてきた。
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