研究課題/領域番号 |
17K04977
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研究機関 | 株式会社コンポン研究所 |
研究代表者 |
早川 鉄一郎 株式会社コンポン研究所, 研究部, 研究員 (90557745)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 酸化マンガン / クラスター / 水分解反応 / 酸化セリウム / X線吸収分光 |
研究実績の概要 |
本研究では水分子の分解反応を目指して酸化マンガンクラスターを酸化セリウムと複合化し、その電子状態や水分子との反応性を調べることで、水分解触媒の設計指針を得ることを目的としている。そのために酸化マンガン‐酸化セリウム複合クラスターの生成、クラスターと水分身も反応測定、X線吸収分光によるクラスターの電子状態測定を行い、水分子分解反応に対する酸化セリウム複合化について理解、検討を進めていく。なお対象とするのは、過去の知見から有望と期待できるマンガン4原子程度、セリウム3原子程度を含むクラスターである。 クラスターの生成はマグネトロンスパッタ法により行う。対象とするクラスターを作製するためにはスパッタ用ターゲットや放電条件などの最適化が必要であり、随時改良を加えながら研究を進めていく。初年度はマンガン4原子を含む酸化マンガンクラスターの作製に成功しており、酸化マンガン‐酸化セリウム複合クラスターの作成に向けて改良を進めている。 X線吸収分光はクラスター中に含まれる元素それぞれの電子状態を独立に調べることができる方法であり、本研究のように水分子の分解によって金属原子の価数変化や酸素原子の結合状態変化が期待される系については非常に有効である。測定は高エネルギー加速器研究機構の放射光施設Photon Factoryを共同利用実験課題として利用し、我々のクラスター装置を持ち込んで実施する。初年度は酸化マンガンクラスターに対してマンガンL吸収端および酸素K吸収端領域での測定を行い、クラスターが含む酸素数に応じたマンガン価数や酸素の状態の変化について知見が得られている。 クラスターと水分子の反応測定は、クラスター装置のイオントラップを改造することにより行う。改造のための部品の設計・製作はすでに完了しており、これからクラスター装置に組み付けて測定を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度である2017年度は、まず最初の研究対象となる酸化マンガンクラスターの生成を行うことから開始し、水分子活性化を起こすと考えられるマンガン4原子からなるクラスターの生成に成功した。さらに本研究において水分子分解反応を起こす有力な候補として期待する酸化マンガン‐酸化セリウムを複合化したクラスターの生成にも着手している。 酸化マンガンクラスターに対するX線吸収分光測定の準備も行い、2017年11月および2018年2月の2回にわたって測定を実施した。測定は高エネルギー加速器研究機構の軟X線実験ステーションBL-2Bを共同利用実験として利用し、クラスター装置を持ち込んで行った。その結果、マンガン2-4原子を含む酸化マンガンクラスターに対して、マンガンL吸収端および酸素K吸収端領域におけるX線吸収スペクトルが得られた。マンガン吸収端でのスペクトルからは、クラスター中の酸素原子数によるマンガン価数の変化が観測された。酸素吸収端のスペクトルには、酸素原子の結合状態を反映していると考えられる複雑な構造が見られた。これらのデータについては現在考察中である。酸化マンガン‐酸化セリウム混合クラスターに対する測定も現在準備を進めている。 クラスターと水分子との反応測定に関しては、装置の改造に必要な部品の設計・製作などは済んでおり、既存の装置に組み付ける準備はできている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定から大きな変更なく、クラスター生成と並行してX線吸収分光測定、水分子との反応測定を行っていく。 クラスター生成については引き続き生成条件の改良を行い、当初から目標としているマンガン4原子程度を含む酸化マンガン‐酸化セリウム複合クラスターの生成を目指す。このためにスパッタ用ターゲットの改良や、スパッタ領域の磁場や電場などの条件の最適化を行っていく。 X線吸収分光測定については、生成された複合クラスターを対象として測定を実施し、クラスター中の金属原子の荷電状態や酸素原子の結合状態について調べることでクラスターの複合化の効果について検討する。 クラスターと水分子の反応測定のための装置を組み付けて測定を開始する。クラスターと水分子の反応性およびクラスター複合化の効果を調べる。X線吸収分光の結果と合わせて複合クラスターにおける水分解反応の可能性について検討し、最適なクラスターのサイズや組成を探索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
クラスター生成法の開発において、水付加した酸化マンガンクラスターよりも酸化マンガン‐酸化セリウム複合クラスターの生成を優先したため、クラスター生成部の大きな改造を次年度に変更した結果、初年度の使用額が減少した。また複合クラスターの生成テスト用には使用済みの金属ターゲットを再加工して使用したため、複合クラスター生成による使用額の増加はこれまでのところ発生していない。 水付加クラスターの生成法開発は2018年度に行う予定であり、その際に初年度で残った助成金が必要となる。金属ターゲットについては生成テスト用、テスト後の測定用に予定通り必要となる。
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