研究課題/領域番号 |
17K04979
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
水柿 義直 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (30280887)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 単一電子トンネリング / ナノ粒子 / パーコレーション / クーロン閉塞 / 低温実験 / モンテカルロシミュレーション |
研究実績の概要 |
本研究課題では,微小ナノギャップの作製やナノ粒子の精密配置を排除した,単一電子素子の新しい作製方法を提案し,その有効性の実証を目指している。島電極に導電性ナノ粒子を利用する点は従来研究のアプローチと同じであるが,本研究課題で提案する手法では,電極ナノギャップへのナノ粒子の精密配置を行わず,サブミクロン程度の比較的大きな電極ギャップにナノ粒子の2次元ランダム配列を形成し,3電極間でのパーコレーション接続・非接続を利用した確率論的な作製を行う。また,この実験方法をモデル化し,数値シミュレーションによって,歩留まりや予想される電気的特性を予測し,実験における素子設計や作製条件へのフィードバックを図る。 3年目となった平成31年度(令和元年度・2019年度)における実験では,大小2種類の粒径を有する金ナノ粒子コロイド溶液を用いた実験と,炭素被覆コバルト・ナノ粒子を用いた実験,および,これらに対して誘電泳動を施した実験などを実施した。 大小2種類の粒径を有する金ナノ粒子コロイド溶液を用いた実験では,それぞれの粒子間の平均距離から実効直径を算出し,また,平坦基板上と電子線レジスト溝内とで異なることを見出した。さらに,誘電泳動を用いた場合,ナノ粒子のサイズによって集合状態が変化し,5 nm径の金ナノ粒子のみでは集合しない誘電泳動条件にて,15 nm径の金ナノ粒子を混合すると15 nm径のみならず5 nm径の金ナノ粒子も集合する結果が得られた。さらに,ゲート電圧応答のバイアス電圧依存性に,大小2種類のナノ粒子が寄与していると推定される特徴がみられた。 炭素被覆コバルト・ナノ粒子を用いた実験では,誘電泳動で集合状態を実現した素子において,電気的特性が外部磁場によって変化する様子が確認できた。さらに集合状態を作製する段階にて磁場を印加すると,磁場を印加しない場合と異なる集合傾向がみられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
金ナノ粒子のパーコレーション接続については,金ナノ粒子の粒径が1種類あるいは2種類の両方の場合において,単一電子素子として動作することを確認している。特に,2種類の粒径の金ナノ粒子を用いた場合には,電気的特性に新たな特徴が確認され,本研究課題の独自性を引き出すことができている。また,金ナノ粒子に代わって強磁性金属ナノ粒子を用いる実験では,最初にニッケル・ナノ粒子を用いたもののランダム配列に導電性がなかったため,次に炭素被覆コバルト・ナノ粒子を採用したところ,単一電子素子としての動作が確認できた。強磁性金属ナノ粒子を用いたことから,ナノ粒子配列作製時や電気的特性測定時に磁場を印加することで,作製条件や応答特性のパラメータを増やすことができている。誘電泳動を用いた作製方法についても,種々の条件を試すことができている。 数値計算に関しては,三角格子を用いたパーコレーション接続のシミュレーションを出発点として,格子点でのナノ粒子の占有確率とパーコレーション接続確率との関係,回路シミュレータを援用した電極間の電気抵抗を計算,モンテカルロシミュレーションによる単一電子トンネリングの計算とクーロン閉塞閾値電圧の導出が可能となっている。 1年目と2年目については順調に研究を遂行することができたが,3年目の2019年度においては,建物改修工事や液体ヘリウム学内設備の不具合により,実質的に合計3ヶ月以上の実験不可能な期間が生じ,外部発表に必要となる定量的なデータを十分に蓄積できなかった。このことから,研究期間の1年延長を申請し,お認めいただいた。進捗状況の区分としては「やや遅れている」に相当すると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
1年延長を承認していただいた令和2年度(2020年度)においては,前年度までに実施できなかった実験項目のなかで,特に大小2種類の金ナノ粒子を用いた実験に注力する。その際,誘電泳動を利用するとともに,電子線レジストに作製した溝構造での金ナノ粒子配列形成を行う。単一サイズの金ナノ粒子の誘電泳動においては,電極形状や電極間隔,誘電泳動に用いる交流電圧の振幅や周波数と印加時間の最適値を経験的に得ているが,二種類のサイズの金ナノ粒子を混合した場合の最適値について引き続き探索する必要がある。また,特性評価については,前年度の実験においてゲート電圧応答のバイアス電圧依存性に二種類のサイズの金ナノ粒子の特徴が見られたことから,この手法を効率よく適用できるよう検討する。また,当初から想定していた温度依存性についても引き続き測定を行う。数値計算による予測との違いがあれば,その原因を考察し,数値計算や実験条件へのフィードバックを行う。 数値計算においては,サイズの異なる粒子を扱えるようにプログラムを拡張し,シミュレーションを行う。大小の粒子を組み合わせた場合のパーコレーション接続確率,電気抵抗,さらにはクーロン閉塞閾値電圧を求め,実験結果との比較を行う。実験の再現に適した計算アルゴリズムの開発がカギになると思われる。また,扱う系がランダム事象であることから,計算結果の統計的な処理方法についても検討を行う。 以上の実験を通して,導電性ナノ粒子の2次元ランダム配列を用いた低コストな確率論的単一電子素子作製法の実証を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年9月から2020年3月にかけて,研究室のあった建物の改修工事が実施された。これにより,実験機材の一時移転先への移動作業,および,工事完了後の元の場所への移動作業に2ヶ月ほど実験ができない期間が生じた。また,一時移転先の部屋面積が狭く,必要な実験機材の全てを移設できなかった。結果として,実験項目や実験回数を減らさざるを得なかった。さらに,2019末以降,実験に不可欠な液体ヘリウムを生産する学内施設にてトラブルが頻発し,実験を止めざるを得ない期間が断続的に続いていた。以上の実験環境上の問題から,計画していた実験が遂行できず,予定通りの研究費執行とはならなかった。 1年間の延長期間においては,前年度に実施できなかった実験を行うための消耗品費,研究成果を掲載した論文の出版費,および研究成果発表のための旅費などで,全額執行する予定である。
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