研究課題/領域番号 |
17K04982
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
瀬波 大土 京都大学, 工学研究科, 講師 (40431770)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 量子電気伝導 / スピン渦 / テンション密度 |
研究実績の概要 |
スピンを伴う量子電気伝導現象の研究を推進した。 場の量子論における電気伝導の描像では、ローレンツ力密度に対して定常状態で拮抗するテンション密度の存在が知られている。スピン伝導を生み出す力学の研究の一環として、ローレンツ力密度をスピン成分で分離して記述する理論の研究に着手した。その第一段階として、拮抗する力であるテンション密度がスピン成分としてどのように分離されるか調べ、テンション密度中のスピン依存成分がどのようにふるまうかの研究を推進した。テンション密度のスピン依存成分が、スピン軌道相互作用の大きな元素の周りで急速に増大する描像を確認した。 場の量子論に基づいて提案されているスピン渦原理の式より、研究代表者はスピン渦と電流の間に行列係数を持つベクトル線形関係式が成立することを予言している。この関係式の数値計算による検証をグラフェンナノリボンを対象として行っている。先行研究では、デバイス材料内の一定の局所領域を積分を行って粗視化して関係式が成立していることを確認できていたが、本年度の研究では、積分を行わない材料内の局所的な各点各点でこの行列関係式(スピン渦ベクトル=定数行列×電流ベクトル)の行列定数が電圧に依存せずに定数行列となっていることを示した。 らせん形状をもつ有機分子中を電子が通過するとスピンが分極して出てくる、カイラル誘起スピン選択性(CISS)という現象が最近発見されたが、このスピン分極がどのようなメカニズムで起こるかは明らかとなっていない。場の量子論におけるスピンダイナミクスの記述には、電子カイラリティ誘起スピントルクがあることが近年議論されている。この電子カイラリティ誘起スピントルクがCISSにどう寄与するか研究を行っている。本年度は炭素らせんナノワイヤーモデルを用いて、非平衡グリーン関数法による電流の計算においてCISSが起こることを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初想定していないようなことは生じておらず、計画通りに研究が進展しており、おおむね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
スピンを伴う量子電気伝導現象の研究を今後も推進する。スピン伝導を生み出す力学の研究として、テンション密度と電子カイラリティ誘起スピントルクを中心にしつつ、スピン渦密度と電流密度の線形関係についての研究を推進する。1) テンション密度のスピン成分分解の研究を進める。テンション密度中にはローレンツ力密度と異なりスピンの向きを変える成分が存在する。この成分がスピンのダイナミクスにどのような影響を与えるか研究する。2)カイラル誘起スピン選択性(CISS)の現象に対し、電子カイラリティ誘起スピントルクがどのように寄与しているのかを突き止める。2020年度の研究においてCISSが非平衡グリーン関数法を用いた数値計算で再現できることが実証できたので、2021年度はこの数値計算においてCISSのスピン分極の度合いが、電子カイラリティ誘起スピントルクとどのように関連づいているのかを明らかにする。3)スピン渦と電流の間の線形行列関係式を2次元系のグラフェンナノリボンの研究から拡張し3次元構造を持つ物質について検証を行う。 研究計画の変更あるいは研究を遂行する上での課題等は特にない。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染拡大防止のため、予定していた国際会議・国内学会が軒並みオンラインでの開催となり、予定していたよりも旅費を使用しなかった。 2021年度も旅費を必要とする会議の開催は少ないと予想され、1年間の研究の進展に応じた文献収集経費やデータ保存用ハードディスク費用、オンライン学会等の参加費としての使用計画を考えている。
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