研究課題/領域番号 |
17K04983
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
籾田 浩義 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (60634889)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 第一原理計算 / 圧電体 / ウルツ鉱構造 |
研究実績の概要 |
本研究は、原子配列・ナノ構造制御によるウルツ鉱構造ベース圧電体材料の高性能化ガイドラインを理論的に構築することを目的とする。平成29年度は、当初の計画通りにバルク圧電体の高性能化のための材料設計指針構築に関する研究を主に実施した。結晶構造データベースに掲載されている全ての2元系ウルツ鉱構造物質群の圧電定数(e33)を第一原理計算から定量的に評価し、圧電定数(e33)と構成元素パラメータ(イオン半径や電気陰性度など)・結晶構造(格子定数や体積など)・材料特性(バンドギャップや弾性定数など)など様々な物性値との相関関係を機械学習的手法を利用して解析を行った。統計学習的解析の結果、高い圧電定数(e33)を有するウルツ鉱構造物質は小さい格子定数比(c/a)を持つという一般的傾向が示された。格子定数比(c/a)がおよそ1.3より大きい範囲では、圧電定数(e33)は格子定数比(c/a)の一次関数として近似的に表すことができる。この関係式は、圧電定数の定義式に第一原理計算結果に基づいた近似を適用することにより、解析的にも導くことができる。さらに、ScAlNなどの3元系ウルツ鉱構造材料でもこの関係は維持されることが明らかとなり、バルク材料の高圧電化に対する材料設計指針のひとつを得ることができた。この成果に基づいて、歪みや元素置換を利用した格子構造制御によりAlNやZnOの圧電性を増大させることを試みた。ZnO中のZnをアルカリ土類元素(Mg, Ca, Sr, Ba)に置換したモデル構造に対して第一原理計算を実行した結果として、Caに50%置換したウルツ鉱構造型CaZnO系で最小格子定数比かつ最大圧電定数が得られることが理論的に予測された。ウルツ鉱構造型物質のバルク圧電性に関する研究成果は平成29年度中に論文として出版することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一原理計算と統計解析手法を用いて、ウルツ鉱構造型材料のバルク圧電性の高性能化キーパラメータを抽出することができた。歪みに対する原子位置変化やボルン有効電荷などの詳細な解析を行い、高圧電性材料の設計指針に関する物理的メカニズムを明らかにした。得られた材料設計指針に基づき、ZnOの圧電定数を元素置換によって増大する方策を理論的に示した。平成29年度の研究実施計画に従い、研究は順調に進められた。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に実施したバルク圧電性(圧電e定数)に関する研究を発展させ、ウルツ鉱構造型物質の圧電d定数の増大機構に関する研究を実施する。元素置換などによって物質の圧電d定数を大きく増大させるためには、圧電e定数の増大と弾性定数の減少を同時に達成することが必要である。第一原理計算を基盤とした計算科学手法により、弾性定数に対する構成元素の組合せ効果などに着目し、バルク材料の圧電性増大条件を探る。平成30年度には、ウルツ鉱構造物質の圧電性に対するナノ構造化効果に関する理論研究を進める。ZnOを中心としたウルツ鉱構造物質のナノワイヤーやナノシートのモデル構造を作成し、極性軸方向の圧電性を明らかにする。圧電性に対するワイヤー半径やシート厚の依存性を評価し、サイズ依存性を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度中に計算データ保存用ストレージの購入を予定していたが、その購入時期を次年度に変更する。次年度以降の計算量増大に備える必要があり、次年度予定分に残額を加えて大容量ストレージ購入に使用することが効率的であると判断した。また、当初予定していた旅費使用額から約3万円の残額が生じたため、成果発表のための費用として次年度に使用する。
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