研究課題/領域番号 |
17K04985
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
鷺坂 恵介 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 先端材料解析研究拠点, 主幹研究員 (70421401)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 走査型トンネル顕微鏡 / グラフェン / 歪み |
研究実績の概要 |
材料に歪みを導入すると、その物質に固有な格子定数の変化が引き金となり、電子状態、バンド構造、材料強度など様々な物性に変化が生じる。本研究ではグラフェンに歪みを印加し、その電子状態を制御する手法の開発を行う。電子状態の検出には走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いる。 グラフェンに制御された歪みを導入する方法として、単層グラフェンシートが載った基板に裏面から圧子をあてて、機械的に曲げ変形を起こさせ、表面に引っ張り歪みを導入する。これを実施するために、前年度、超高真空-低温STM中で曲げ試験の可能な歪み印加STM用試料ホルダーの試作を行った。 本年度はこの試料を用いて、PET基板上のグラフェンを曲げて応力印加を行い、低温STM計測を行った。応力印加中のグラフェンの原子分解能計測に成功した。一方、トンネル分光を行い電子状態計測を行ったが、応力印加前と変化は見られなかった。そこで、同試料について、同様な曲げ試験および引っ張り試験の実施が可能なラマン分光測定装置用の試料ホルダーを製作し、テストを行った。その結果、グラフェンの2Dバンドのシフト量から換算して、グラフェン自身に導入されている歪み量は0.4%程度あることが判明した。基板を大きく曲げているにも関わらずグラフェンに十分な歪みが導入されなかった原因として、グラフェンと基板を同時に固定している押さえ板周辺でグラフェンが破損し、表面歪みが最大と考えられる領域ではグラフェンと基板がすべりを起こしたためと推察される。本来グラフェンが持つ電子状態を保持するために、グラフェンと相互作用の弱い基板を利用したために、期待した歪み導入に至らなかった。このような結果になったため、グラフェンの歪みを導入するための次の方策が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初から計画していた曲げ試験による方法では、基板上のグラフェンに十分な歪みが導入されないことが判明した。そのため期待したグラフェンの電子状態変化が検出できなかった。次の方策として、インデンテーション法を提案するが、それを利用するためにSTM装置の改造作業を行ったため、全体の進捗はやや遅れることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
グラフェンへの歪み導入法として、曲げ試験による方法から転換し、圧痕を利用する方法を採用する。これはビッカーズ試験のようなインデンテーションを行い、圧痕周辺に導入される歪みを利用する。インデンテーション法では、グラフェンは基板に強く押し付けられるために、基板とのすべりが起こらず、これまで以上に歪みがグラフェンに導入されると期待される。これを実施するために、超高真空中で動作するインデンターの試作とテストを経て、グラフェンへの歪み導入を目指す、
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