研究課題/領域番号 |
17K04988
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
豊田 太郎 電気通信大学, その他部局等, 名誉教授 (40217576)
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研究分担者 |
沈 青 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (50282926)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 半導体量子ドット / 酸化チタン単結晶 / 硫化鉛 / 有機系配位子 / イオン化エネルギー / 光音響分光 / 無輻射緩和 |
研究実績の概要 |
半導体量子ドット(QD)は太陽電池増感剤として、従来の色素増感系を凌駕する特徴がある。従来の増感太陽電池ではQDの吸着面積を増加させるため、酸化物ナノ粒子集合体基板電極が使用されている。しかしこの電極系は乱雑な多結晶集合体のため、太陽電池機能に重要な要素であるQDの電子状態や電子移動に関する評価に曖昧さがみられた。これら基礎物性を明瞭にするための第一歩として、本研究では基礎物性の良くわかった、異なる面方位を持つ酸化物単結晶へのQD吸着を図り、QD内&基板界面での基礎物性を明らかにすることが重要である。本年度は引き続きルチル型TiO2単結晶(面方位:(001), (110), (111))を基板として、3種類の配位長の異なる有機系配位子(ligand)を結合したPbS QD系(粒径は ~2 nmに固定)を吸着した。Ligand結合により、QD間の距離の制御が可能となる。これらの系に対して、(1) QD吸着とモルフォロジー、(2) 光吸収、(3) イオン化エネルギー、のQD間隔と吸着基板面依存性について検討を行った。QD吸着とモルフォロジーは基板面には依存性しなかった。光吸収評価には光音響法(PA)と従来の吸光度法(Abs)を適用した。PAスペクトルは無輻射緩和を反映するため、Absスペクトルとは異なる格子緩和の信号が出現する。一方無輻射緩和は電子・格子相互作用や太陽電池の開放電圧に関連する。無輻射緩和は基板面に依存し、(111)面では(001), (110)面とは異なることが示された。さらに(111)面上では、QD間隔の増加に伴い無輻射緩和率が異なることが判明した。続いて光電子収量法(PY)から電子移動の要因となる自由エネルギーを導出した結果、QDから基板への電子移動に伴う無輻射緩和とQD内での無輻射緩和効率が、QD間隔の増加と共に異なることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
結晶面方位の異なるルチル型TiO2へのCdSe QDs, PbS QDs, さらに配位長の異なる有機系配位子(ligand)を結合したPbS QD系の吸着法を確立した。各結晶面上に吸着したQDの吸着速度、粒径変化、結晶性の評価を行い、それらにおける新たな結晶面方位依存性を見出した。さらにDFT計算から吸着エネルギーを求めた結果は、測定と定性的に一致することを確認した。これらの結果は従来ほとんど研究されてなかったQD結晶成長に新たな知見を提供することが出来た。またPA法による光吸収測定の適用により、従来のAbs法に比べ光エネルギー吸収後の緩和過程(輻射過程、無輻射過程)の全体像がとらえられる可能性が示唆され、新たな発見に繋がった。配位長の異なる有機系配位子(ligand)を結合したPbS QD系では、単純なPbS QDs系とは異なる光吸収後の緩和過程が見いだされ、前者の規則系と後者不規則系における電子・格子相互作用の違いが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
PbS QDs 系に(含、配位長の異なる有機系配位子(ligand)を結合したPbS QD系)について、従来適用してきたルチル型TiO2の他にZnO系、SrTiO3系、アナターゼ型TiO2を対象に、面方位の異なる単結晶基板を適用する。これら基板に吸着したPbS QDs 系を対象に、結晶成長、光吸収、イオン化エネルギーの基板結晶面依存性について検討を行う。特に指数関数的光吸収の評価から、格子不整合と電子・格子相互作用に伴う電子移動およびQD間脱励起に伴う無輻射緩和効率について検討を行う。さらにPbS QDsと基板の波動関数の重なり合いを検討し、量子閉じ込め効果と基板結晶面方位との関連を研究する。さらにこれらの評価結果と増感太陽電池における開放電圧との相関について検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度には論文を投稿予定であり予算を計上していたが、新奇なデータが発生し、論文化のための考察に時間を要した。その結果投稿が出来ず、次年度使用が生じた。次年度には予定していた論文投稿への補充(英文校正料、投稿料)とする予定である。
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