研究課題/領域番号 |
17K04989
|
研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
寺迫 智昭 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 准教授 (70294783)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 酸化亜鉛 / 酸化銅 / CBD法 / 表面モフォロジー / シード層 |
研究実績の概要 |
本研究では、人工光合成用Zスキーム型光触媒用複合ナノ構造体用の半導体材料としてn型半導体ZnOとp型半導体CuO及びCu2Oを研究対象としている。本年度は複合化の前段階としてZnOとCu2Oの化学溶液析出法(CBD法)での結晶成長技術確立に注目した。ZnOのCBD法成長においては、(1)ZnOナノロッド(NRs)の成長におけるシード層の効果及び(2)成長途中でのポリエチレンイミン添加によるZnOナノ構造体の形状制御の試みに取り組んだ。(1)のシード層の効果については、主にイオンプレーティング法でガラス基板上に堆積したGa添加ZnO(GZO)薄膜、SiO2/Si(100)基板上にスパッタリング法で堆積したAu薄膜及び市販のAu/Ti/Si(100)基板上へのCBD法によるZnO NRsの成長を行った。この結果、GZO薄膜をシード層に用いた場合とAu薄膜を用いた場合とでは成長初期の薄膜堆積機構に違いがあり、これによりNRs中に働く応力に違いがあることが明らかになった。前者はVolmer-Weber成長機構により成長し、NRs中に働く応力は圧縮性-引っ張り性-圧縮性と成長時間とともに変化した。一方後者では、Auシード層とNRsとの付着にはvan der Waals力が働き、成長時間によらず引っ張り応力が働いていた。(2)の成長途中のPEIの添加実験からは、成長中にPEIを添加することでNRs間での双晶形成が抑制されることを示唆する結果が得られた。申請者が見出したFe支援CBD法によるCu2O成長においては、成長時にCBD溶液中に浸けるFeプレートの面積によって成膜速度が制御可能であることを示す結果が得られた。またCu2O成長時のAuシード層のグレインサイズあるいは配向性によってCu2O表面モフォロジーが著しく変化し、基板の選択も形態制御の重要な因子であることが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
化学溶液析出法は、その名の通りに溶液ベースの結晶成長法であり、溶媒である「水」の役割は非常に重要である。本年度の後半に研究室で使用していた純水製造装置が老朽化したため、新装置へ更新した。新旧装置で水の純度の指標となる伝導度に極端な違いは無いが、同一成長条件で同一基板上に水だけを変えて成長する実験を行ったところ、成長したZnOナノロッドの直径に大きな相違が見られた。「PEI添加によりZnO NRsの直径方向の成長が著しく抑制される」と文献で他研究者が主張しているほど明確に表れていなかったことが、水の違いによるものと考えられ、現在も進行中ではあるがこの検証に時間を割いた。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、進捗状況に記載した水純度の問題についても引き続き取り組む必要がある。水純度の違いでZnO NRsの直径が変化したという事実は、その要因を明らかにすればNRsのの形状制御に応用できる可能性を示唆している。昨年度は、PEI添加量及びCBD成長開始からPEI添加を開始する時間をパラメータとするZnO NRsの「動的」なCBD成長実験を行ったが、それほど明確な結果が得られなかった。この要因が水純度にある可能性もあることから新純水製造装置の純水を用いて本年度の実験を改めてトレースする必要がある。 GZO層上に成長したZnO NRsにおいては、表面に有機半導体PEDOT:PSSをスピンコート法で堆積して作製したPEDOT:PSS/ZnO NRs/GZO有機-無機ヘテロ接合において、紫外線照射下での光検出の動作が観察され、ZnO NRsでの光応答が確認されていた。一方のCu2OあるいはCuOに対しては光学的特性評価が十分になされていないのが現状である。したがって、次年度は、ZnO、Cu2O及びCuOの光学的特性評価、特に光伝導度スペクトル及び光伝導過渡応答測定に重点を置き、この測定結果をCBD成長実験にフィードバックさせることでZスキーム型触媒を実現する上でより良い特性を持った薄膜あるいはナノ構造の成長条件あるいは形態制御の可能性を明らかにしたい。 上述の結果を基にヘテロ接合を形成へと展開していくが、n型ZnO層とp型Cu2OあるいはCuO層の堆積順はデバイス構造設計上重要であるが、CBD法であるがゆえに先に堆積した層が次に堆積する層の溶液からのダメージを受ける可能性もある。したがって単純に連続的に浸ける溶液を変えるだけで良いのか、あるいは溶液を切り替える前に熱処理などの前処理の必要性などを明らかにする。 また本年度は、ガスクロマトグラフ装置を用いた光触媒評価装置を構築する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究の対象は、n型半導体ZnOのナノ構造作製とp型半導体CuO及びCu2Oのナノ構造作製に大別できる。本年度は、前者において新しい知見が得られるなど、目覚ましい進展があり、それに伴い成長実験も予定通りに進んだ。一方、CuO及びCu2O成長に関しては、特にCuO成長において再現性等において問題が生じ、成長実験の進度が著しく低く、実験回数も必然的に少なくなった。この結果としてCuO成長実験に使用する試薬の購入経費が残った。次年度において本年度のCuO成長実験の進度の遅れを挽回すべく、試薬購入に充当する。
|