研究課題/領域番号 |
17K04996
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研究機関 | 福島工業高等専門学校 |
研究代表者 |
田中 利彦 福島工業高等専門学校, 化学・バイオ工学科, 教授 (10709819)
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研究分担者 |
梅澤 洋史 福島工業高等専門学校, 化学・バイオ工学科, 准教授 (20369929)
青山 哲也 国立研究開発法人理化学研究所, その他, 研究員 (50342738)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | J会合体 / ポリテトラフルオロエチレン / 分子配向 / 分子動力学 / シミュレーション / 二色性色素 / 原子溝 |
研究実績の概要 |
(1)既存の偏光顕微鏡に備品を加え、J会合体の分布を計測する当初予定の観察システムを構築した。当初計画の性能があり粒径1ミクロンほどの大きさの微細結晶中のJ会合体の分布を測定できる。多数の干渉フィルターを確保しており、対象とする会合体の吸収極大波長に合わせて選択が可能である。画像解析によって会合体の分布とその他のムラを出来るだけ区別できる高精度システムに仕上げた。 (2)新たにポリアゾ系色素化合物の塩素置換体3種の合成を行った。 (3)すでに入手済みの、ポリアゾ系色素化合物13種、ポリフェニルアセチレン系化合物1種を配向PTFE上に堆積した実験と、分子動力学計算の結果、それぞれの配向度の間には強い相関があり、当該分子動力学計算の妥当性を強く裏付けた。 (4)そのうち2種の極めて高い配向度の化合物の詳細解析から、線形分子がPTFE上で配向する原因がPTFE鎖間にできるフッ素で負に帯電した原子溝に分子が捕捉される機構にあるという結論が得られた。この成果は長年追求してきたPTFE上での分子の配向機構に決定的な解を与えるものと考える。この機構によれば、フッ素の最高の電気陰性度によってのみ、強い負電荷による帯電と原子溝の形成が両立することから、PTFEの配向誘起基板としての強い効果と幅広い材料への適応力は、固有のユニークな性質で他の材料で容易に実現するものではない。 (5)この成果は早速速報として日本化学会の英文速報誌ケミストリーレターに投稿し、掲載された。またこれに先立ち概要を、EMRS2017Fall(ワルシャワ)にて講演した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)J会合体の分布を計測する当初予定の性能の観察システムが完成している。 (2)色素化合物の合成が予定通り進捗し、当初計画の通り化合物が得られた。 (3)分子がPTFE上で配向する原因がPTFE鎖間にできるフッ素で負に帯電した原子溝に分子が捕捉される事にあるという極めて重要な結論が得られ、その速報も掲載できたし、国際学会で講演も出来た。この結論は本研究課題に止まらず、優れた配向誘起基板の一つのモデルを提示するものであり、おそらく他の材料で容易に実現するものではないが、巧みな分子設計によって新しい材料が発見される僅かな可能性ももたらした。研究の重要なマイルストーンに到達したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
分子動力学計算と実験結果の相関を根拠にして、末端置換基がどのように配向度に影響するかさらに解析を進める。すでにいくつかの重要な結論が得られつつあるが、それを集約して、いくつかの一般的結論を導く。それと同時にその配向現象とJ会合体形成との相関を解析する。配向現象だけでなく、色素分子それ自体の構造にも、そもそもJ会合体を形成し易い性質の大小があるはずで、その影響も大きい。内的要因と外的要因がどう会合体形成にからんでいるか、という視点で解析を進めたい。そのためにも、完成した観察システムを使い、J会合体の分布の測定を進めて、J体形成の機構を考察する。現在の仮説が正しければ、J会合体はグレインの周辺部のPTFE界面の部分に形成されるはずである。
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次年度使用額が生じた理由 |
主たる理由は参加した国際学会の一つが、計画当初の予想から日程がずれこみ次年度冒頭になったため、そのための参加費、および旅費に該当する金額が翌年度に繰り越しになったため。
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