研究課題/領域番号 |
17K04999
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪産業技術研究所 |
研究代表者 |
渡瀬 星児 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 森之宮センター, 研究室長 (60416336)
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研究分担者 |
中村 優志 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 電子材料研究部, 研究員 (70783322)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 発光性金属錯体 / 混合配位子錯体 / ハイブリッド発光材料 / エネルギー移動 / 配位子設計 / 分子間相互作用 / ユーロピウム錯体 / 金錯体 |
研究実績の概要 |
本申請課題では、無機元素の特徴を活かした機能材料を創出するにあたり、無機元素由来の優れた発光機能を示す材料の設計指針を明らかにすることが目的である。具体的には、優れた発光特性を示す金属錯体の発光する能力を損なうことなくマトリックス材料となる高分子材料にハイブリッド化することを目指して、その配位子設計指針の探索を行う。平成30年度は、分子間相互作用を介した超分子型ハイブリッドの形成について検討した。発光中心には主としてd軌道錯体のハイブリッド化を目的として、様々な置換基を導入した配位子を用いて合成した高効率発光する金錯体を用い、これらをケイ素系高分子材料であるポリシルセスキオキサンとのハイブリッド化した薄膜発光体を作製するとともに、その発光特性の評価を行った。合成した金錯体の中から結晶状態室温で約50%と高い発光量子効率を示す金錯体を用い、金とケイ素の比が1:1となるようにポリフェニルシルセスキオキサンとハイブリッド化したところ、均一で透明な薄膜を作製することができた。この金錯体は結晶状態では高い発光量子効率で発光するものの、溶液状態で発光を示さない。しかしながら、作製したハイブリッド薄膜は、発光量子効率こそ結晶状態の約1/60に減少するものの、明らかに目視できる程度に発光することが分かった。そこで、薄膜を77Kまで冷却して発光特性を評価したところ、結晶状態とほぼ同程度の発光量子効率まで改善し、明るく発光することが分かった。このような温度依存性の挙動から、ハイブリッド膜中においては配位子等による分子運動が発光を妨げているものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ユーロピウム錯体を代表とするf軌道錯体を発光中心として用いたハイブリッドでは、発光の起源となるf軌道は希土類元素において遮蔽された環境にあるため、ハイブリッド化という環境が発光特性を弱めてしまう直接原因となることは顕著ではないようである。むしろ、弱いながらもハイブリッド化されたことによるユーロピウム錯体の分子構造の歪みや構造の非対称化が結果として結晶中にある場合とは異なる発光特性をもたらすことが分かってきている。一方、d軌道錯体を発光中心に用いたハイブリッドでは、f軌道錯体の場合とは大きく異なり、d軌道が環境から受ける影響は甚大で、配位子の配座構造の揺らぎや振動などといった分子運動の影響を極めて強く受けるため、ハイブリッド化にあたって制御すべき因子が多く、まだまだ改善すべき点は多い。平成30年度に実施した分子間相互作用を介する超分子型ハイブリッドにおいて、発光中心として用いた金錯体は結晶状態では良好な発光を示すが溶液状態では発光を示さないため、凝集誘起発光の可能性を排除できなかった。しかし、高分子マトリックス中という環境下では、結晶の発光よりは弱くなるものの、室温でも発光を示すハイブリッド薄膜が得られることがわかった。また、発光特性の温度依存性から、77Kと室温では特に無放射失活速度に約10倍の差があることが分かり、発光特性を悪化させる一因であることがわかった。このことはハイブリッド化した薄膜においてもなお分子運動の影響が発光を弱める原因であることを示しており、発光中心となる錯体の分子運動を妨げることができる組み合わせを探すことが解決策の一つになり得ることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は、主としてd軌道錯体を用いて、その発光特性がハイブリッド化したマトリックス内でどのような影響を受けるかについて検討を行う。高分子材料には引き続きケイ素系高分子材料に着目し、ケイ素と結合する有機基を一つ有するポリシルセスキオキサンを用いる。有機基に様々なタイプのものを導入し、ハイブリッド化したd軌道錯体の発光特性に与える影響について調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
端数として残ったが、次年度予算に合わせて使用する。
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