前年度までに検討した分子動力学シミュレーションのフレームワークを併用し、クラスターイオンの照射効果を検討する衝突シミュレーションを実施した。これまで広く実施されてきた、均一な平面ではなく、エッジ部分や異種材料の接合部等、大規模な構造を持った表面に対する衝突シミュレーションを行った。衝突させるクラスターの種類、構成原子数、入射エネルギーに応じて、均一平面との形状変化の差異等の解析をおこなった。 古典的な二体衝突シミュレータである、MARLOWEの入出力データファイル用ユーティリティの改良を進めた。古典的なシミュレーションソフトウェアでは、出力データが構造化されていないことから、その解釈は困難が伴う。これに対し、EBNF形式で出力データファイルの文法を定義することで、不定長レコード出力の区切りや、オプショナルかつ不定形の出力レコード等を矛盾なく解釈するよう、安定したパーサを作成した。これをもとに、より高速、高効率のデータ変換プログラムへの改善を検討した。 シミュレーションに限らず、イオンビーム工学全般における、データマネジメントの在り方の検討を進めた。イオンビーム工学分野において広く利用されているシミュレーションソフトウェアであるSRIMの入力データを基本のメタデータとして、各種シミュレーションや実験のパラメータ記述することで、異なる手法、研究組織間でのデータの比較、相互利用の可能性を提示した。
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