研究課題
本研究では,高温超伝導体Bi2Sr2CaCu2O8+δ(Bi2212)単結晶を用いたテラヘルツ波発振器(Bi2212-THz波発振器)の出力の向上に向けた開発を行っている。本年度は,複数の素子制御による出力向上を考慮して,次の2つのプロセスに関し重点的に研究開発を行なった。1つ目は,前年度に続き,素子の発振特性のさらなる安定化を目指した素子構造の改良を行なった。具体的には,我々が開発する発振素子では,Bi2212単結晶のチップ構造(単独メサ構造)を使用する。そしてBi2212-THz波発振器を製作するには,この単独メサ構造を2つの電極間に機械的に固定する必要がある。この単独メサ構造の固定の安定性が,素子の発振特性に影響する。そこで素子の周辺構造を更に改良し,特に素子の電気・熱的な接触不良の改善を行なった。その結果,比較的薄い単独メサ構造を用いても,安定した電気特性が得られることが分かった。現在も,引き続き改良中である。2つ目は,発振素子の発振線幅に関する検討を行なった。これまでの研究から,Bi2212-THz波発振器の動作時には,直流電流の印加によるジュール熱によりBi2212メサ構造に温度分布が生じ,発熱が発振特性に影響を与えることが知られている。ただ,この発熱と発振線幅がどう対応しているかの詳細な理解はまだ十分ではない。発振線幅の理解は,複数の素子の同時動作において,その発振特性を決定する重要な要素であり,これを制御することが欠かせない。本年度の研究では,単独メサ構造に含まれるジョセフソン接合の同期状況と発振線幅の間の相関を示すような結果が得られたので,現在はこの詳細を詰めているところであり,この特徴を次年度の研究へ活用する予定である。上記研究に関する成果は,学術論文や学会(日本物理学会, 応用物理学会, アメリカ物理学会)等で適宜報告を行った。
2: おおむね順調に進展している
本年度は,当初の研究計画の実現性を高めるために,素子特性の安定化と複数動作を考慮した発振線幅に関する検証を行なった。これにより,前年度以上に素子制御に関する知見が得られたので,これを次年度の研究に活用する。そして当初計画を若干修正し,研究目標の到達を目指す。
本年度の成果をベースに,当初計画を適宜修正しながら研究を進める。具体的には,本年度の成果である,電気・熱的な接触不良の改善を行った素子構造を用いて,当初計画で予定していた,素子のアレイ構造や,素子の外場による制御から,素子の発振性能の向上を目指す。
予定していた旅費などの出費が抑えられたため,少額ながら次年度使用額が生じた。この分は,次年度の旅費及び消耗品の購入費に利用する。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (21件) (うち国際学会 7件、 招待講演 3件)
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