研究課題/領域番号 |
17K05023
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
江本 顕雄 同志社大学, 理工学部, 准教授 (80509662)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | コロイド微粒子 / フジツボ状孔構造 / 多孔性膜 / ポリスチレン / ポリビニルアルコール / ソフトインプリント |
研究実績の概要 |
本研究課題「ナノ・マイクロスケールのフジツボ状多孔質膜の形成に関する基礎研究及び高機能化」について、研究計画に基づいて、フジツボ構造形成の構造形成メカニズムの調査を行った。これにより、現在限定的な高分子材料のペアのみで実現されている構造形成において、多様な材料選択などを可能するための知見が得られると期待される。 この調査を行うために、これまで市販のコロイド微粒子の配列を利用して、フジツボ状多孔質膜を作製していたプロセスの見直しを行った。具体的には、フジツボ構造の鋳型となる初期構造の作製を、ソフトナノインプリントによる転写プロセスに変更することとした。これには、残膜レスのインプリントプロセスが必要となるが、溶媒調整と転写時の基板温度の条件を最適化することで、ポリスチレンのピラー状構造をガラス基板上に転写することが可能となった。更に、このポリスチレンピラーをポリビニルアルコールでコートすることで、トルエン浸漬プロセスを介して、やはりフジツボ状の構造を形成可能であることが検証された。これにより、モールドに充填可能な高分子材料であれば、フジツボ構造の鋳型への適用可能性を検証できるプロセスが確立できたことになる。 さらに、上述のインプリントプロセスによるピラー構造を利用して作製したフジツボ状多孔質膜を銀でコートして、周辺屈折率の変化に対する消失スペクトルの変化を検証したところ、コロイド微粒子を鋳型として作製した場合比べて、より敏感な変化が確認され、センシングチップなどへの応用展開に際して有効な進展が得られたと考えられる。 当該年度には、以上のように多くの進展が得られた。特に、申請時に提案していた、コロイド微粒子を起点とする構造形成プロセスを排し、材料選択性の高いインプリントプロセスにてフジツボ状構造の形成を実現できた点は、以降の研究進行に有効的に作用すると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究実施計画では、当該年度において、フジツボ状構造の形成メカニズムの把握について詳細に調査すること、そのフジツボ構造表面の物理的特性を調査する、という2項目を計画していた。 特に前者においては、フジツボの外殻となるポリビニルアルコール層へのプラズマ処理の影響を詳細に調査し、高分子層の化学的・物理的変性に基づいて、その形成メカニズムを調査する計画であった。しかしながら、研究実績の概要に示した通り形成プロセスを大幅に改良することで、より簡便にフジツボ構造の作製と材料選択性の検討が可能となった。また、プラズマ処理プロセスも省略することが可能となった。これにより、メカニズム調査における計画を一部変更し、ポリビニルアルコール層形成時のポリビニルアルコール水溶液濃度の影響の観点から、形成メカニズムを調査することとした。結果として、この水溶液濃度と構造形成の関係が明らかとなり、フジツボ構造造形成の物理的イメージを鮮明に把握することができた。従って、計画に変更は生じたものの、目的に沿った調査を実施することができた。 一方で、後者のフジツボ構造表面の物理的特性の調査については、計画通りに実施することができなかったが、次年度以降に実施する予定であった応用に向けた検討の一部であるセンシングチップへの適用の検討などを実施できたため、研究計画全体としては、おおむね順調に進行していると考えられる。また、表面の物理的特性の調査については、次年度以降に改めて検討することとした。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、前年度の進展状況および申請時の研究計画を踏まえて、フジツボ構造形成メカニズムの調査の継続と、フジツボ構造の機械的強度の強化の検討、の2項目に焦点を当てて研究を実施する予定である。 前者は、前年の大幅な作製プロセス改良に基づくもので、より簡便かつ高い再現性をもって、フジツボ構造を形成可能となった為、これに基づいて材料物性や構造上の特徴などを踏まえた形成メカニズムの調査が系統的に実施できる状況が得られたことに起因している。これにより、ポリスチレンの膨潤によって、外側のポリビニルアルコール層を突き破って孔構造を形成する本研究のフジツボ状多孔性膜の形成メカニズムを、さらに詳細に明らかにできると考えられる。 後者は、申請時当初の研究計画に基づくものであり、応用上の観点から当該孔構造の機械的強度を強化するための検討である。具体的には、2つのアプローチを検討する。1つは、外殻を形成する水溶性高分子のポリビニルアルコール層に、セルロースナノファイバー等を導入して強化するものである。もう一つは、フジツボ構造形成後に、無機物でコートして強化するものである。この場合、スパッタリングなどを利用してより強固な外殻構造を形成し、場合によっては最終的にPVA層を熱処理や溶媒によって除去することで、完全に構成材料自体を置き換えてしまうことも考えられる。 以上のように、前年に引き続き、基本的調査と応用に向けた検討の両者を視野に入れて、研究を進めることを計画している。
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