研究実績の概要 |
最終年度である令和2年度は、昨年度に引き続いて構造に乱れにより三次元的分極揺らぎのあるナノサイズ極性領域の存在する非鉛系のペロフスカイト構造酸化物K(Ta1-xNbx)3 (KTN)、並びに一次的分極揺らぎのあるタングステンブロンズ構造酸化物の強誘電体Ca1-xBaxNb2O6 (CBN), (Sr1-xCax)1-yBayNb2O6(SCBN)の相転移におけるダイナミクスを調べた。ブリルアン散乱、ラマン散乱の温度依存性、外部電場印可効果、メモリー効果などについてKTN,CBN,SCBNで得られた実験結果を整理してまとめるとともに普遍性のある物理的解釈を行った。併せて、これまで研究が進んでいなかったテラヘルツ帯で反射率の高い強誘電体研究に適したテラヘルツ反射型エリプソメトリーによる強誘電ソフトモード、緩和モードなどのテラヘルツダイナミクスの研究を行った。ペロフスカイト構造で寛容係数がほぼ1.0である理想的なパッキング状態である量子常誘電体SrTiO3 (STO)結晶は、低温に向かって強誘電的不安定性が増大するが量子揺らぎのための強誘電性は発現しない。しかし、微量の元素添加によりこの理想的な安定構造が乱され、強誘電性、超伝導性、スタガード相転移などが出現することが知られている。リラクサー強誘電性の観点からは、微量の元素添加はランダム場の導入によりナノ極性領域(PNR)が生じて量子揺らぎに拮抗するとともに、多形と結びつく様々な構造不安点性が誘発される。微量元素置換することによりランダム場を導入した量子常誘電体STOについて、さらに研究を進めた。また、これらの研究結果の中から価値の高い研究成果は、国際学術誌に発表するとともに当該分野の代表する国際会議で発表した。また、令和2年度は最終年度であるため、これまでの研究成果を取りまとめて総説論文も出版した。
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