研究課題/領域番号 |
17K05034
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
川崎 祐 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 准教授 (10346588)
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研究分担者 |
中村 浩一 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 教授 (20284317)
岸本 豊 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 教授 (80201458)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 電荷分離の微視的観測 |
研究実績の概要 |
バナジウムブロンズδ-Ag2/3V205 は,225 Kにおいて金属絶縁体転移を示し,この転移はAgイオンの秩序が引き起こす電荷整列に起因した新奇な相転移と考えられている。高温で既に1/3程度のVにおいて電荷分離が起こっており,これがAgイオンの秩序に誘起されて電荷整列の発現に至った可能性がある。Ag-NMR, V-NMR測定から,電荷分離と電荷整列がAgのイオン運動・秩序とどう対応して出現するのかを明らかにする事が目的である。 NQR周波数の異なる2サイトのVのNMR信号が観測され,これらは共に非磁性V5+のNMR信号と考えられる。それぞれの強度比から,2サイトのVは1:1で存在すると見積もられた。これは電荷整列パターンのモデル構築の手がかりとなる。V5+の核スピン緩和率の測定から,V4+-V4+の3d電子対におけるスピン一重項のエネルギーギャップの大きさが約130Kと見積もられた。また,このV5+のNMR信号は225 K以上で大半が消失する事から,この温度における金属絶縁体転移が電荷分離を伴うことを微視的に確認できた。しかし,225K以上においても5%程度の信号が観測される事から,相転移温度以上の高温から既に電荷分離が起こっていると考えられる。Agイオンの秩序の兆候を観測するには,Agイオンのイオン運動に関する情報が必要であるが,現在のところAg-NMR信号の観測に成功していない。今後の研究において,Ag-NMR測定が困難である場合,V-NMRスペクトルの先鋭化によりイオン運動の情報が得られる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
V-NMRスペクトル測定により,基底状態において,NQR周波数の異なる2サイトのVのNMR信号が観測された。これらは共に非磁性V5+のNMR信号であると考えられる。これまでの研究により,2サイトの非磁性V5+の数比,それらの数の温度依存性,V4+-V4+の3d電子対におけるスピン一重項のエネルギーギャップに関する情報が得られており,Vの3d電子状態についての理解を微視的観点から深める事ができた。一方で,電荷整列パターンの詳細なモデル構築に必要と考えられるV4+のNMR信号は観測できていない。また,Ag-NMR信号の観測に成功しておらず,Agイオンのイオン運動に関する情報も得られていない点が課題である。
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今後の研究の推進方策 |
Agイオンのイオン運動に関する情報が得るため,引き続きAg-NMR信号の探索を行う。Ag+-NMRスペクトルの先鋭化からイオン運動の温度依存性を調べ,BPP型の核スピン緩和率から活性化エネルギーやホッピング時間等を見積もる事が目的である。Ag-NMR信号の発見が困難である場合,V-NMRスペクトルの先鋭化によりイオン運動の情報を得る事を試みる。 また,試料の急冷により,Ag+イオンの秩序が生じなければ,V4+-V4+対におけるピン一重項は現れない。つまり,Ag+イオンの秩序が電荷整列と関係しており,その電荷整列構造がスピン一重項の形成に影響を及ぼしていると考えられる。Ag+イオンの秩序/無秩序が3d電子状態やスピン状態に及ぼす影響を明らかにするために,試料の急冷により,Ag+イオンの無秩序状態をクエンチし,Ag+イオンの無秩序状態におけるVの電荷分離・COの状態,スピン状態を明らかにする。Ag+の秩序を伴う低温相との違いを明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度,トップロード型冷凍機システムで用いるNMR測定用プローブの製作を,本学の機械工作センターに依頼した。その支払いが次年度となったため,次年度使用額が生じた。次年度使用額は,主にこの支払いにあてる。
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