最終年度はリン酸塩ガラスのゼロ光弾性を発現するメカニズムを考察するため,これまでのガラス組成を「電子分極率性」の観点から調査した。リン酸(P2O5)のほかに,複数の金属酸化物について,既往のデータをもとに電子分極率を組成毎に割り当て,ガラス組成全体としての電子分極率をこれまでに光弾性定数を調査してきたガラスすべてに適用した。その際,リン酸ガラスのネットワークは鎖構造から成るため,鎖の長さ,分岐の仕方が多様である。我々は,前年度に取得していた核磁気共鳴法によって,これらの鎖状構造を分類し,種類ごとの割合を求めて,リン酸(P2O5)組成の内訳として評価した。その結果,光弾性定数が極めて小さいガラス組成では,ガラス全体の電子分極率が大きくなる結果を得た。さらに,異なる金属酸化物を組み合わせたリン酸塩ガラス組成に対して,光弾性定数-電子分極率の相関曲線は一つのフィット直線にのることが分かった。同様に,ガラスの屈折率に対しても,電子分極率に比例相関し,高分極性の金属酸化物を多量に含むことで屈折率を増加させる,従来の考え方を,ガラス構造情報に基づいた定量的データによって裏付けることができた。ガラスの光弾性定数に関する本年度の成果として,酸化物ガラス,特にリン酸塩ガラスの電子分極率を考えることによって,未知のガラス組成に対する光弾性定数を予測できることにある。偏光光学素子として,鉛のような毒性元素を用いずに,あらかじめ光学特性を予想できることは大変意義深いと考える。
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