研究課題/領域番号 |
17K05043
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
黄 晋二 青山学院大学, 理工学部, 教授 (50323663)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | グラフェン / イリジウム / CVD成長 / 基板再利用 / ホール測定 / キャリア移動度 |
研究実績の概要 |
本研究では、グラフェンCVDの下地として高融点で高い化学的安定を有するイリジウムに着目し、スパッタリングによってサファイア基板上にエピタキシャル成膜したイリジウム下地を用いた単結晶グラフェンの成長について研究を進めている。本年度は、下地となるイリジウム/サファイア基板をDCマグネトロンスパッタリングによって従来よりも高温の1150度で作製した。グラフェンCVDを複数回に渡って行ったところ、同一の基板を用いて7回に渡ってグラフェンを成長させることに成功した(これまでは最高3回であった)。一方で、成長したグラフェンには多数の多層島領域が形成された。これは、CVD時に固溶、残留した炭素原子が次のCVD時に析出することが原因であると考えられる。一方、CVDを繰り返してもイリジウムの表面モルフォロジーは連続的なステップテラスが維持されており、大きな変形をしていない。これは高温でイリジウムを成膜したためであり、このことが複数回の成長を可能にしたと考えている。また、イリジウム/サファイア基板上で作製したCVDグラフェンの電気的特性の評価に取り組み、従来の条件(450度成膜と900度ポストアニール)で成膜したイリジウム上のグラフェンの場合と、今回の高温成膜したイリジウム上グラフェンとの比較を行った。シリコン基板へ電気化学的に転写したグラフェンをホール効果測定によって評価した結果、シート抵抗とキャリア移動度はそれぞれ、低温成膜イリジウム下地では1200 Ω/□, 830 cm2/Vs、高温成膜イリジウム下地では670 Ω/□, 1670 cm2/Vsであった。イリジウムを高温で成膜した方が基板の結晶性が高く、優れた電気的特性が得られた。今後は更なるイリジウム基板作製条件の最適化を行うとともに、CVD条件、電気化学転写条件の検討が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、実現を目指している「グラフェンCVD成長における同一基板の再利用性の向上」について取り組み、高温で成膜したイリジウム下地を用いることで7回までの再利用に成功した。更に、イリジウム表面モルフォロジーはほとんど変形していないため、7回以上のCVD成長も可能であると考えられる。再利用性向上のためには、イリジウム表面の制御が最も重要と考え、AFMを用いた表面モルフォロジーの詳細な評価を進めた結果であり、本研究の大きな成果のひとつであると考えている。しかし、成長したグラフェンは一様な単層膜ではなく多数の多層島を含んでおり、課題も見つかっている。また、今回初めてイリジウム上に成長したグラフェンのシート抵抗およびキャリア移動度を評価することができた。キャリア移動度は「単結晶イリジウム上に単結晶グラフェンを成長する」という研究目標に関連して、その単結晶性を評価するための重要なパラメータであり、これの評価に至ったことは大きな進展であると考えている。しかしながら、当初考えていたキャリア移動度よりも低い値となり、測定手法を含め、グラフェンの単結晶性の向上という課題が見出された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で得られた課題は3点ある。(1)同一基板を用いた複数回のグラフェンCVD成長において、多数の多層島領域が形成される。(2)成長したグラフェンの単結晶性が高くない(3)電気化学転写条件の最適化が不十分である。これら3点の課題を克服すべく、成長条件や実験条件の最適化、および測定手法や評価手法の見直しなどを進めて行く。併せて、イリジウム上に成長したグラフェンのデバイス応用についても進めて行く予定である。デバイスとしては、グラフェンアンテナ、塩素センサー、バイオセンサーなどを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究費に少額の残額が生じたため、翌年度に使用することとした。
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