研究実績の概要 |
高品質かつ大面積のグラフェン膜を成長する方法として化学気相成長(CVD)法が有望視されている。我々はCVD成長の下地基板として、高融点で高い化学的安定を有するイリジウム(Ir)に着目し、RFマグネトロンスパッタリングによって成膜された同一のイリジウム/サファイア基板を用いて、3回にわたるグラフェンのCVD成長と電気化学転写が可能である事を2016年にApplied Physics Lettersに報告した。2018年度に、より再利用に適したイリジウム/サファイア基板の作製条件の確立に取り組み、高温でIr下地を成膜することで、優れた再利用性を実現できることが分かった。しかし、再利用基板を用いて成長したグラフェン膜には、高密度の多層グラフェン島が形成されていた。この多層グラフェン島は、CVD成長中にイリジウム層に固溶した炭素が、次のCVD成長の際に析出して形成されたものである。2019年度は、このイリジウム層中の残留炭素を除去し、一様な単層グラフェン膜を成長する技術について検討を行った。本研究で考案したプロセス工程は(1)転写完了後、イリジウム/サファイア基板に対して、真空中で1000℃、60分間の加熱処理と急冷を行い、イリジウム層中に固溶している炭素を表面に析出させる(2)酸素プラズマ処理を施すことで表面に析出させた炭素を除去する、というものである。この残留炭素除去プロセスを施したイリジウム層上にCVD成長したグラフェンは、一様な単層グラフェンであった。以上のように、イリジウム/サファイア基板を用いたグラフェンCVD成長において、再利用時であっても一様な単層グラフェンを成長できるプロセス工程の技術確立に成功した。本研究成果の主たる部分は、Japanese Journal of Applied Physics 59, SIID01 (2020)として発表された。
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